鹿島美術研究 年報第7号
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2.中尊寺螺細八角須弥壇の研究この研究は,孔雀文格狭間の成立についての考察の成果に立脚している。(1) 問題の所在中尊寺大長寿院蔵螺細八角須弥壇(国宝)は,平安後期の和様須弥壇を代表する遺品として著名である。とりわけ,この壇が人々の関心をひくのはその特異な図様構成にあろう。螺細八角須弥壇は,正八角形の平面を持つ木造の須弥壇である。八つの各側面には格狭間が設けられ,鏡地に迦陵頻伽の打ち出し金具を鋲留めしている(金具は8面中6面が現存)。上下の桓には,八つの各辺の中央に螺細で一本の三鈷杵を表し,また材と材の接合部には三鈷杵を打ち出した金具を留めている。二種の技法による三鈷杵の大きさは等しく,三鈷杵が壇の周囲を一周する構成となっている(三鈷杵繋文帯と仮称する)。束には,天蓋と蓮華座を備えた金剛鈴が螺細で表されている。鈴の身部には掲磨文か見える。従来の研究では,螺釧八角須弥壇の図様を単に「文様」と解釈してきた傾向があり,図様の意味やこのような特殊な図様が表現された経緯に関してはほとんど論考されていない。この論文は螺細八角須弥壇についての研究の序論として,個々の図様の意味を解釈し,その荘厳の特徴について検討するものである。さて,先述のように螺細八角須弥壇の図様は,①三鈷杵繋文帯,②金剛鈴,③迦陵頻伽,の三つに分けることができる。(2) 図様の解釈ー一三鈷杵繋文帯平安後期における三鈷杵繋文帯の作例には,金剛界曼荼羅,別尊曼荼羅,三昧耶五鈷鈴などがある。金剛界曼荼羅では,成身会の大円相の外周上に三鈷杵繋文帯が描かれているほか,内側の中円相(五解脱輪)のうち大日如来以外の四仏の座す中円相と内供養菩薩との境界にも三鈷杵繋文が見える。さらに,第二院の内外辺にも三鈷杵繋文帯が表されている。これと同じ構成の三鈷杵繋文帯は,降三世会,降三世三昧耶会,三昧耶会,微細会,供養会,四印会に見られる。理趣会では九尊の間の格子状の界線および第二院の内外の境界に三鈷杵繋文帯が見えるほか,一印会では大日如来の外側に枠状の三鈷杵繋文帯がある。ただし,諸本によって三鈷杵の代わりに独鈷杵が用いられたり,あるいは双方が使われる場合もある。77

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