鹿島美術研究 年報第7号
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⑦ 近・現代美術館における運営の理念と実践研究者:北海道立函館美術館学芸課長中塚宏行研究報告:1.はじめに当初パリとニューヨークの美術館視察を計画していたが,予算の都合で,ニューヨクは10年程前に一度訪れているので,今回は筆者未見のパリの美術館を優先させ,近現代美術を対象としている美術館を中心に,できるだけ数多くの美術館をみてまわることを心がけた。見学したのは,ルーヴル,オルセー,ポンビドー,グラン・パレ,プチ・パレ,ロダン,ピカソ,モロー,ブールデル,カルナヴァレマルモッタン,オランジュリー,パリ市近美で,8日間のフリー・ツアーの実動4日で13館を駆け足でまわることになった。各美術館の建物,施設,コレクション等を視察するとともに,案内パンフレット,所蔵品カタログ等の資料収集をあわせておこない,国内でこれまで収集してきた資料とつきあわせて,各美術館の活動を分析,比較検討することで,当館をはじめとする今後の美術館活動の一助とすることとした。2.ルーヴルルーヴルについては大改造後のルーヴルを視察するのが主な目的であった。これまでのルーヴルは,資料の管理業務や運営事務のスペースが全体の5%しかなく,観覧者のための案内やサービスについても問題があり,作品の質量のわりに,機能性に欠けるという評があった。それが今回の改造で広場の中央にガラスのピラミッドがつくられ,その地下にナポレオンホールと呼ばれる大きな地下空間を設けることによって大幅に改善された。すべての観覧者はこのピラミッドから出入りし,ナポレオン・ホルから希望する各展示館,例えばドノン館,シュリー館,リシュリュー館,あるいはレストラン,カフェ,ミュージアム・ショップヘとそれぞれ行き来できるようになり,アクセスの便がはかられている。また,展示室の各場所に置かれた現在地表示やモナリザなどの有名作品の展示場所を指示する案内板等が配置され,予想以上に利用者のための便宣という点で近代化がはかられていた。1900年建造のオルセー駅を大改造することによって生まれたオルセー美術館は,原則として1848-1914年の19世紀末〜20世紀初頭を対象とすることで,ルーヴル(古代〜近世)とポンピドー(20世紀全般)の間を僑渡しし,この三大美術館によって全時代が3.オルセー-89 -

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