鹿島美術研究 年報第7号
124/312

リダクション⑧ 戦後抽象絵画とその理論の体系的研究研究者:兵庫県立近代美術館学芸員尾崎信一郎研究報1.フォーマリズム絵画と絵画理論今世紀後半期の抽象絵画がニューヨークを舞台として洗練され,展開されてきたに,もはや疑いの余地はないだろう。しかしそれは単に優れた作品の羅列によって語り尽くされるものではない。これらの抽象絵画の正当性を擁護した決定的な要因として,今やフォーマリズム絵画理論は今世紀有数の指導的絵画理論としてのその本質を検証されるべき時を迎えている。私はこれまでポロック,ニューマン,ステラといったフォーマリズム絵画の系譜に沿って作品を中心に,これらの抽象絵画を研究してきた。「戦後抽象絵画とその理論の体系的研究」はこのような作品研究と理論の検証の両論によって完結するものであるが,紙数も限られているため,本論は特に理論的な側面に関する研究報告とする。個々の作品論,およびより詳細な理論研究は別稿に譲りたい。フォーマリズムとは作品を純粋に形態論的な側面から分析する立場である。古くはクライヴ・ベル,エドワード・フライなどイギリス系美術批評に由来するこのような理論は,戦後にあってはクレメント・グリンバーグによって体系化される。グリンバーグの立場は以下のように特徴づけることができる。(1)美術の自律的価値カントに由来し,モダニズムに特有の思考であるが,美術は固有で自律的な価値体系を有し,その洗練は美術という枠内で遂行される。(2)歴史主義モダニズム美術はアヴァンギャルドに先導される歴史的な過程として実現される。いうまでもなくここにはマルクス主義の影響がうかがえる。(3)純粋還元美術の洗練とは固有のメディウム内で,他のメディウムと共有可能な要素を放棄していく還元的なプロセスとして実現される。ここから導かれるグリンバーグのフォーマリズム絵画理論に従えば,絵画の本質とは,もはや還元不能なその平面性にある。グリンバーグはマネに代表される印象派からモダニズム=フォーマリズム絵画の系譜を説き起こしているが,印象派からキュビスム,抽象絵画へと至る,いわば西欧絵画の王道の中で,絵画は次第にその本質へと接近すると考えるのである。その過程において主題性,再現性,空間性といった絵画にとっ2.フォーマリズム絵画理論-98 -

元のページ  ../index.html#124

このブックを見る