鹿島美術研究 年報第7号
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4.フォーマリズム絵画理論批判3.フォーマリズム絵画70年代に勃興したコンセプチュアル・アート,とりわけジョセフ・コススが提唱するドでもある。ルイス・オリッキーらに続く作家たちにもグリンバーグは一方的に影縛力を行使したにも拘わらず,その後は凡庸な作家しか生まれていない。最初に述べたように個々の作家論,および作品論は別稿に譲ることとする。ここでは私が研究の対象としたフォーマリズムの系譜を形作る作家名のみ列挙しておきたい。既に述べたとおり,戦後抽象絵画においてこのコンテキストを形成するのは抽象表現主義,ポスト・ペインタリー・アプストラクションの作家たちである。さらにこれに続くミニマル・アートとフォーマリズムの関係はきわめて重要であり,今後の重大な研究課題であるが,問題が広がりすぎるので本稿では割愛する。これらのうち,まず抽象表現主義においてはアーヴィング・サンドラーのいう身ぶりの画家のヴィレム・デ・クーニングそしてジャクソン・ポロックについて研究を重ねた。続いてサンドラーのいう色面抽象の画家であり,ルイスらに直接つながるバーネット・ニューマンに関しても考察を加え,現在はフランク・ステラについて研究中である。ステラは初期においては一連のモノクローム絵画によってフォーマリズム理論にゆるやかに応答していたが,70年代中盤以降,表現主義的な作風へと転じ,現在は異様なバロック的レリーフを制作している。ステラの展開を検討することはフォーマリズム絵画理論の可能性と限界を探るうえで有意義である。そして現在資料を準備中であるが,今後は再びルイス,オリッキーらのポスト・ペインタリー・アプストラクションの画家について研究を行いたい。フォーマリズム絵画理論は戦後抽象絵画を圧倒的に制圧したドグマであった。70年代後半より実際の作品によって,そしてさらに言説の形で様々なフォーマリズム絵画理論批判が噴出している。これはフォーマリズム絵画理論の相対化が可能とされる時代の到来を示すものであろう。本研究ではこのような批判も視野に収めつつ,現時点でのフォーマリズム絵画理論の総括を行いたい。まず現象面では,美術の形式性を解体する一連の動向(しばしばミニマル・アートと同一視されているが両者の関係は精査されねばならない)を前提の異なるものとしてとりあえず除外するとしても,まず-100-

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