分析的コンセプチュアリズムは,形態論を美術の本質とは無関係だと断罪し,いわばフォーマリズム理論の対案を提示したものとして重要である。この動向はその後の広がりに乏しかったものの,続いて80年代初頭に世界的に隆盛をみた,いわゆるニューペインティングにおいては,あからさまな具象性,物語性などフォーマリズム絵画で忌避されてきた要件が誇示され,フォーマリズム絵画理論の終焉が暗示された。グリーンバーグは70年代以降,批評の第一線から退き,これらの動向に対しても沈黙を守っている。しかし彼の理論に対する批判は若い論者を中心に近年,さらに高まっている。彼らの論点は次のように分類できるであろう。(1)美術が固有の価値をもつというモダニズムの前提に対する批判。いかなる作品も社会的あるいは心理学的背景とは無縁ではありえない。固有の価値なるものは存在するのかという疑義。(2)歴史主義的史観およびアヴァンギャルドの役割に対する批判。とりわけその単線的な史観が結果的に美術の可能性を著しく狭めたのではないかとする批判。(3)純粋還元の概念への批判。モダニズム絵画の展開の推進力は果たしてこのような概念のみに収敏するのかという疑問。T.J.クラークはこれに対し,「メディウムの否定性の実践」という概念を対置することによって,さらにダダイスムやミニマル・アートまでを包括しうるモダニズム美術の視座を提示している。これらはいずれも先に掲げたグリンバーグのフォーマリズム絵画理論の三指針に正確に対応している。つまり,これらの論者は前提そのものを否定することによってしか,フォーマリズム絵画理論に対しえないのである。これはこの理論の整合性の卓絶を証明する事実にほかならない。フォーマリズム絵画理論の功罪は今後も問われ続けるであろう。いかなる批判が提起されようとも,今世紀においてこれほどの影特力をもった体系的絵画理論は他にしない。ようやくその相対化が可能とされた現在,抽象絵画の理路を体系として把握するためにもこれからもそのような試みは続けられなければならないと考える。ここでは本研究のアウトラインの提示にとどまったが,今後も機会があるたびに検討を文章化していきたいと考える。-101-
元のページ ../index.html#127