鹿島美術研究 年報第7号
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(3) 15■16世紀を埋める有年紀資料としての連歌懐紙この間の変遷をたどる資料として連歌隈紙に注目してみた。それは連歌懐紙の下絵が,扇面画の主題となるほど(南禅寺蔵扇面貼交屏風中の一葉)室町時代に流布していたこと,初折表の右端にある程度の指標となる張行の年紀が記され,編年に便利であることなどの理由による。以下今までに調査しえた資料のなかで主要なものを取りあげ,コメントを付しておこう。〇応永三十年熱田法楽百韻懐紙(熱田神宮蔵)現存する最古の連歌懐紙は,「東大寺要録」(仁治2年・1241書写)の紙背に使われた「賦何屋何水連歌」の懐紙である。紙面に下絵を施こした絵懐紙がいつごろから始まったかはわからないが,足利義満らが明徳2年(1391)に北野天満宮に奉納した一万句の連歌懐紙には,梅や松の下絵が描かれていたことが史料より知られる。その後「看聞御記」「宣胤卿記」に連歌懐紙の装飾についての記述がみられ,室町時代を通じて盛んであったことがわかる。この懐紙は,まず第一に初折表と名残り折裏に日月の意匠力鳴iこされていることで注目される。霞の形やモチーフの配置が,応永年間の制作とみなされる後小松天皇哀翰「融通念仏勧進帳」に共通することから,まず年記どおりの作品と認めてよい。室町時代の屏風絵の代表的主題である四季日月図の研究上,重要な資料である。〇永享9年北野社万句法楽連歌隈紙(北野天満宮蔵)北野天満宮は,室町時代の連歌界のメッカであった。永享年間は一万句の法楽連歌が年毎に奉納された時代で,この懐紙は現在北野社に残る唯一のもの。管領細川持之一座の千句の第一の四紙である。図様は初折表に影向松と梅,裏以下に浜松・鶴の親子・桜流水など春の景物を配している。上下に小さく孤を重ねながら帯状に棚引く霞,打曇りの大胆さなど,全体に後花園院哀翰「源氏物語抜書」(大念仏寺蔵)に近く,やはり年紀どおりの作品とみてさしつかえない。とくに三折裏の松竹梅鶴図は絵画資料としても貴重である。0能阿弥筆集百句之連歌(文明元年,天理図書館蔵)ら窺う限り,打曇り料紙の使用,四季景物モチーフの使用,そして霞の形が簡略化していくことなどの特色があげられる。そのなかで本作品は厳密には張行連歌の懐紙で15世紀から16世紀にかけての金銀泥下絵の動向は殆どわかっていない。そこで私は,15世紀中葉より16世紀中葉にかけての絵懐紙の動向は,今まで調査してきた作例か118-

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