鹿島美術研究 年報第7号
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はないが,この時期の連歌界周辺の料紙装飾として注目される。四季恋雑の部立て毎に集められた連歌を桜より枯芦までの四季景物下絵巻に書写したもの。上下の打曇りの中間に描かれた鶏・鶉・芙蓉などは従来の下絵にはなく,常識を超えた大きさである。ただ打曇り料紙の扱い方や四季の構成,霞の形は従来の枠組であり,そうした基本型のうえに新たな要素が付加された作品といえる。山下裕二氏のご教示によれば,能阿弥自筆とみて矛盾はなく,制作期も年紀どおりと考えられるという。能阿弥は足利幕府の唐絵目利であり,また連歌師としても永享5年の北野社一万句法楽連歌の席以来,七賢人の一人として活躍していた。伝能阿弥筆「三保松原図屏風」の図上にみられる霞の一部には,先の北野社万句懐紙にも施こされた帯状にたゆとう細かい孤を重ねた金泥の霞が見出される。阿弥派の連歌師としてのキャリアと絵画製作の交渉はえるべき重要な課題であり,本作品はその鍵をにぎっている。0元亀二年大原野十花千句懐紙(勝持寺蔵)16世紀中葉以降,僅かではあるが連歌懐紙にも変化が表われてくる。今回の調査では,永禄年間以降それまでの帯状の霞に代り,線描でくっきりと描かれた積雲形の雲が顕著になっていくことが確認できた。狩野元信の晩年以降,狩野派の金屏風中に金雲が目立つようになっていくことと関連するのではあるまいか。本作品は,花下連歌の発祥地,大原野勝持寺で元亀2年(1571)2月に興行された千句連歌(追加ー)の懐紙41枚で,やはり積雲形の雲表現がみられる。天正年間の年紀のある連歌懐紙に比ベ,同じ様式を示すとはいえ丁寧な制作である。年紀どおりの作品と認めて誤まりないと思われる。以下この作品を中心に室町時代の絵懐紙の特色をまとめておく。① 室町時代以降基本形式となってゆく百韻連歌懐紙の集大成。四季景物を一紙の表裏に描き,デザインの宝庫である。春〜桜・梅・春草・鶯・雲雀・月・太陽夏〜夕顔・燕子花・八橋・カンゾウ・卯花秋〜秋草・楓・菊.冬〜雪持の竹や松・枯芦・水仙・枇杷花② 柳・橋・蛇籠→宇治名所,三保松原,住吉,と。③親しげに飛ぶ小鳥鹿池から顔をのぞかせる蛙など,明る<楽しい表現となっている。室町時代中期以降出現する小絵と天地寸法が一致し(本作品の天地は18.1など名所絵の絵様が知られるこ119-

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