鹿島美術研究 年報第7号
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下絵の制作活動が,大きな意味をもったのだと推測される。工芸的といってよいほどに破綻のない完結した造形を狙う本画の制作は,主題や構図や色彩の選択においてはともかく,やはり全体として伝統的な制作手法に従っており,内面の感情を画面に吐き出すような激しい描写法は,日本画の本画においては不向きであった。画家の内面における情念の表出は,下絵の段階において,より確実に具体化されたにちがいない。その結果,大正期に描かれた荻祁の大下絵には,ある種の表現主義的とでもいえる生命力に満ちた表現が実現され,作品によっては,本画を凌駕するほどの迫力ある下絵が制作されたのである。-166-

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