⑫ 「請来」伝承を有する密教法具の研究研究者:奈良国立博物館学芸課(文部技官)研究報告:平安時代初期,空海,最澄らの入唐僧によって,わが国に大日経,金剛頂経に基づく体系的な密教(正純密教・純密)がもたらされた。密教では,教理と実践を不二とし,自らの成仏をはじめ様々な目的達成のために行法け贔)を行うが,この際,行者は,規則に従って壇を設け,木尊に供物を捧げ,さらに呪を誦え,手に印を結び,観念をこらして法を修する。密教法具は,その壇上に設えられる法具類の総称で,金剛鈴,金鴫杵,金剛盤,火舎,六器,飯食器,華瓶,四檄などからなり,これらが如法に配置されることによって独特な宗教的場が形成される。こうした密教法具も,入唐八家によって唐より請来されたものが先縦となってわが国に定着することになる。特に,密教においては,師資相承によって厳格な秘法の伝授(伝法灌頂)が行われており,こうした儀式の際には,伝法のみならず密教法具の伝授あるいはその形式についての教示があったとみて大過ない。それを裏付けるように,現存する法具遺品のいくつかには,例えば,弘法大師請来,慈覚大師請来の如く請来伝承を有するものや,請来品の形式を踏襲した「請来様」の伝承をもつものが散見される。ところで入唐八家,すなわち最澄,空海,常暁,円行,円仁,円珍,恵運,宗叡は,いずれも勅を奉じて唐に渡り,帰朝後,請来した経典,儀軌,図像,曼荼羅,法具類の目録を作成して奏進した。これらは『八家秘録』と呼ばれるが,これらに記される法具類は,経典や儀軌道類と同様,実に多岐にわたり,当時の求法僧の教相,事相両面にわたる強い関心を如実にみせている。今回,「請来伝承を有する」という観点で考察を進めるに際し,まず該当する法具類の検索を始めたが,この種の法具は予想外に多く,このうち特に唐代の制作になる可能性のあるものを第一次資料とし,次に請来品の「写し」であっても,第一次資料に準ずる極めて特徴的な形式を有するものを第二次資料として,優先的に調査を行った。これにあてはまる資料のうち最も多くを占めたのは,空海(弘法大師)の請来伝承を有する法具類であった。真言宗祖である空海に関わる事相面の伝承が多いのは,自然なことといえるが,そ関根俊-167_
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