くびういった空海請来関係品，及びその形式を襲う「写し」の実体を整理することは，その伝承の真偽を別にしても，わが国草創期の密教法具形式の想定やその系統的研究に大いに資するところがあると思われる。既に調査を終えた法具類においても空海にまつわる作例は，他に抜きんでて多いが，今回はそれらをおおむね，①『御請来目録』記載品に比定される京都・東寺密教法具及びその形式を踏襲した法具，②鈴身に諸を鋳出した金剛鈴，③異形式を示す法具，という三種に大別し整理することとした。次にそれらの形式的特色の記述を中心に，同系の遺品や「写し」の実体についてみることとする。①の東寺・密教法具に関しては，その一具品を構成する五鈷鈴，五鈷杵，金剛盤の各々について検討する必要がある。（なお，従来この密教法具については，当初よりこの三点が一具品として制作されたとする記述が一般的である。しかし実査により金剛盤上に置いた五鈷鈴と五鈷杵は，前者を手に持つことによって，後者の重みで盤が転倒する可能性が生じ，修法に用いる実践的な法具としては，その機能を十分に果たせない状況にあること，さらに，五鈷鈴，五鈷杵，及び金剛盤々面に線刻された五鈷杵図における鈷部と把部の形式が，以下に記すように根本的に相違することが知られ，これらの三点が全く別個に制作されたとするのが，より自然な見方であることを付記しておきたい。）まず，東寺・五鈷鈴の形式的特徴で留意される点は，中鈷を八角形に整えること，脇鈷の基部に嘴形あるいは三日月形を全く付けず，内側への括れを作るだけの簡素な形式を示していること，鈴身側面に三組の紐帯を廻らすことである。この形式は，以後，わが国で主流となる普通鈴（素文鈴＝中鈷の断面が四角形で脇鈷の基部に嘴形を表わし，把中央に鬼目，鈴身側面に二組の紐帯を廻らす形式を有する金剛鈴）の形式とは一線を画している。この系統に属する遺品としては，金剛峯寺・五鈷鈴（平安時代），個人蔵・五鈷鈴（鎌倉時代）などがあり，中鈷の断面が四角形ではあるが，金剛峯寺・三鈷杵（平安時代）も同系より出た形式と考えられる。なお，東寺・五鈷鈴では，鬼目は正円形であるが，金剛峯寺・五鈷鈴では，やや縦長の楕円形鬼目に変わっている。これに近い鬼目を持つのが修禅寺・独鈷杵（平安時代）や金剛峯寺・独鈷杵（平安時代）で，前者は出土品であるが，後者にはやはり空海請来の伝承が伴う。五鈷杵の場合には，中鈷の断面を八角形に象る点で，前記五鈷鈴に準ずるが，脇鈷に雲形（三日月形）を付し，把の中央を梯形の十六面切子形に作って，その各面に猪-168_
元のページ ../index.html#194