絵画(11~14世紀)の調査ー一説話ないし祝祭図像を伴う諸聖堂に関する研究—⑬ プーリア,バジリカータ,カラーブリアにおける`ビザンティン系”モニュメンタル研究者:東京工芸大学工学部非常勤講師岡崎文夫研究報告:イタリア半島南部,プーリア,バジリカータ,カラーブリア三州に散在するビザンティン系聖堂壁画の現地調査は,当初,夏季に約二月の余裕をもって実施する予定であった。しかし,筆者の父が平成元年春先より病気入院,その後,夏を迎えての容態悪化,他界といった私的事情をかかえたため,調査計画をやむなく変更した。結局,南イタリアを中心とする現地調査は,本年2月24日から3月25日に至る約四週間の縮少した日程のもとに実施した。11-14世紀に帰属するイタリア半島南部のビザンティン系聖堂壁画全般にわたる調もとより本研究の課題ではな〈,ギリシア人画工の関与をしるす説話ないし祝祭図像を堂内に伝え残す聖堂の諸例を探ることが主たる目的であった。南イタリアにおけるビザンティン絵画の受容状況およびその変様の過程の掌握という観点からすると,プーリアよりバジリカータ東部にかけて分布する,小アジアのカッパドキアにも対比される岩窟聖堂群とそこに残る壁画群も,当然,調査対象とすべき重要性をもっている。それらの壁画群に,単なる地方様式の凡庸な作にとどまらぬ習~を積んだ技量を見せる渡来ギリシア人画工あるいは定住ギリシア人画工の手になる作も散見されるからである。しかし,それらについては,今回は準備段階において既に別の機会に調査を行なうことにしていた。本研究は,聖堂造営とそれに続く堂内の壁画装飾という大がかりア人画工の活動を究めようとする企てである。以下に,今回現地調査を果し,写真資料づくりなどを行なった聖堂例を順を追ってとりあげ,研究成果の一端を報告する。最初にとりあげるのは,バジリカータ州における唯一調査対象としたサンタ・マリア・ダングローナ(SantaMaria d'Anglona)聖堂である。同聖堂はイオニア海よりのポリコロとやや内陸の街トゥルシを結ぶバス路線のちょうど中程の丘陵地に,かつて同地アングローナの司教座聖堂としてあった歴史を消しさった,周囲に集落をもたぬ孤立した姿で建っている。堂内には,近年の修復の結果,ようやく読解が可能となったばかりのかなりの傷みをとどめる壁画が残されており,制作年,画工の出自などを要するイタリア半島南部の聖堂例に眼を向け,それにしたギリシ-171-
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