鹿島美術研究 年報第7号
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隋唐鏡各鏡式のうちで,その初現が隋•初唐以前にあると考えられるものには,四はいずれも3世紀に収まるものであり,建武5年鏡タイプ,仏獣鏡タイプを除いては製作年代が4世紀後半に下る例は見出し得ない。このことは,神獣鏡の出土例が4世紀前半を境として急激に減少する傾向と全く軌を一にしているものと思われる。また各鏡式の製作年代の前後幅を考慮してみても,2世紀前半にその初現がある鏡式が,その鏡式の持つ図像の意味合いをこわすまでにはデフォルメされることなく作り続けられる時間幅としては,3世紀がすでに限界であるという見方もできよう。神(獣形,唐草)十二支鏡,四神(獣形)銘帯鏡,海獣葡萄鏡,宝相華文鏡の4鏡式がある。四神十二支鏡はそのI• II式のものに隋墓出土例があり,最も新しいIII式には武徳4年(621)の紀年鏡があり,7世紀前半までに製作年代が比定できる。四神銘帯鏡はその新しいII式に隋墓出土例と永徽元年(650)の紀年鏡があり,鏡胎の比較から四神十二支鏡のII式と同時期と思われるI式には,隋以前の年代があてられる。海獣葡萄鏡・宝相華文鏡は,上述2鏡式との対比から,その初現は四神銘帯鏡I式とほぼ同じ時期と考えられる。従って,この4鏡式はいずれも隋以前にその初現が遡るものと思われ,とりわけ四神十二支鏡I式には古い年代が考えられる。この型式には隋墓出土例があり,一応確実に隋まで年代をあげられるが,その四神・十二支の文様は北朝の墓誌との対比が可能で,今の所出土例からの確証は得られないが,その古様な図柄は,530■550年前後の年代をあてることが可能であろう。(1)(2)で検討した如く,後期漢式鏡と初期隋唐鏡の間には少なく見積っても200年に及ぶ時間的な空白が考えられる結果となった。次に出土資料からこの時期の墓葬出土の鏡を通観してみると,1つの傾向が明瞭となってくる。まず。出土例中にはこの時期に製作されたと考えられる鏡に,1つの鏡式と呼びうるほどの明瞭かつ固定的な文様が見当らず,鏡式名を設定しえないような文様のくずれた鏡,単純化された幾何学的な文様の鏡が極めて多くなっている。しかもそれらは例外なく直径の小さい小型鏡で,文様の鋳出しも粗雑になっている。また,明らかにこの時期の作鏡とは見なし得ない鏡(単圏銘帯鏡・内行花文鏡・方(3) 両者の中間の時代(350年〜550年頃)(2) 所謂初期隋唐鏡の初現-176-

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