鹿島美術研究 年報第7号
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ション)とF.ウェインガールトの模刻版画および,他に模写(ミュンヘン,プダペスト他)によって知られる作品「飲み騒ぐ傭兵」においては,傭兵たちの無軌道な暴力の犠牲となった農民たちが描かれている。晩年のルーベンスが,ペーテル・ブリューゲルによってジャンルとして確立された,農民を主題とする風俗表現に積極的な関心を示したことは周知の通りである。フランドルの風俗画は,単に飲食や踊りに興じる農民ばかりでなく,兵士の暴力の犠牲となった農民たちの生活の苦しみをも表わしてきた。ルーベンスはこの事実を充分に承知していたのである。「飲み騒ぐ傭兵」とは対照的に,農民たちのおおらかな祝宴を描いた「ケルメス」(パリ,ルーヴル美術館)のような作品には,あるいは平和のもたらす恵みという象徴的な意味も込められていたのではないか,という興味深い指摘も行なわれている。-184-

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