鹿島美術研究 年報第7号
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⑯ 水墨画における探幽様式の特色について研究者:大阪大学大学院文学研究科芸術学専攻博士課程鬼原俊枝研究報狩野探幽研究はまだ端緒にあるとはいえ,新出資料は現在も着実に増え続けている。もまた,数多い探幽作品のデータの収集ならびに分析に努めてきたが,探幽関係資料の全てを現時点で完全に揃えることは不可能である。したがって,現時点での研究方針としては,既存の資料の範囲で,探幽画の特質を探る手掛りを提供し得る資料を体系的に揃え,かつこれを分析する有効な視点を確立することを目指している。この点について調査の過程で改めて痛感したのは,第一に,探幽の多岐にわたる画業のなかで,その輪郭を最もはっきりと示してくれるのは和画系の作品でも三幅対の掛幅画でもなく,漢画系の障壁画作品であるという点である。第二に,探幽様式の成立にるまでの画壇の状況を正確に理解することが,結局探幽様式の本質を捉えるもっとも近道であるという点である。従来の狩野探幽研究では,武田恒夫氏が和画系の作品に注目し,探幽がそれまでの狩野派になかった新しい局面を開いたことを指摘した。一見して探幽画とわかるそれらの平明で明る<滴酒な作風も,大局的にはやはり漢画系の障屏画作品にみられる探幽様式を基盤として生み出された造形である。一方,掛幅形式の作品は探幽の活躍期間のうち後半期のものが多く,若年期から難しい。ところが,障壁画作品となると,下記のように製作年代がわかる豊富な数量の作例が,若年期から得られる。・理性院壁貼付「山水図」(紙本墨画)19歳•名古屋城上洛殿障壁画(紙本墨画淡彩)32歳・大徳寺本坊大方丈障壁画(紙本墨画)40歳・聖衆来迎寺客殿障壁画(紙本墨画)41歳.酬恩庵方丈障壁画(紙本墨画)49歳・妙心寺大方丈障壁画(紙本墨画)53歳・西本願寺黒書院障壁画(紙本墨画)56歳・玉林院方丈障壁画(紙本墨画)68歳これらのうち二条城二之丸御殿だけが金碧画であって,他はすべて水墨画である。このような資料がありながら,従来は各々の作品紹介と現状の確認にとどまっした指標をたてて分析してゆくことが-185-

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