鹿島美術研究 年報第7号
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544, l.3■ 6)。松浦五郎は武文の僕を呼び,酒を飲ませ引出物を与えなどして,御息l.13■p.545, l. 3)が,家に火をつけられたので,御息所を背負い向かう敵を打ち払い(no.4 7'p.545, l. 5),港の船を招きよせ,この上膜をいましばらくお乗せ下さいと,53'p.549, l. 1■ 2)。暫くして大物浦に至ると,腹を切って死んだ武文が,緋威しの待っていた松浦五郎という武士が,御息所の姿を垣間見て,恋着してしまう(no.44'p.所の素性を訊ねる(no.45'p.544,l. 7■10)。日暮れを待って,松浦は御息所を奪い取ろうと郎党三十人ばかりを引き連れ,宿に攻め入る。武文は勇敢に闘う(no.46'p.544,波打ち際に立って呼ばわった(no.48'p.545,l. 6)。しかし,これを聞いて一番に渚に寄せたのは松浦の船であった。武文はそれと知らず喜び,御息所を預け乗せてしまう。松浦の船は天の助けとばかりに沖へと漕ぎ出していく。武文は小舟に乗って追いかけて行くが間に合わない。松浦の船では,扇をあげてその船とまれと呼ばわる武文を見ては,笑うのであった(no.49'p.545,l.15)。武文は海底の龍神にもならんと,舟の紬先に立ち腹を十文字にかき切るのであった(no.50'p.546,l. 1■ 2)。さて,御息所を奪い乗せた松浦の船が阿波の鳴門を過ぎ行くとき,にわかに風の向きが変わり,大きな渦潮が船を呑込もうとする。水主舵取り達はむしろを投げ込みその間に船を進めようとするが,船は動かない。これは財宝目当ての龍神の仕業であろうと,鎧腹巻太刀などを投げ入れるが,渦は静まらない。そこで御息所の絹と赤袴を投げ入れると(no.51'p.547,l. 3■8)'渦は引いたが船は動かず三日三晩止められ,皆船酔で苦しむ。舵取が「何であれ龍神が欲しがるものを海に沈めぬば収まるまい,これなる上!葛を沈め給え」と進言する。松浦が御息所を海に投げ込もうとする寸前,便船していた僧が袂をき,「生きながら人を海に沈めるなどするならば龍神は一層怒りうであろう」と,経を読み祈りをあげることを勧める(no.52'p.548,l. 5■14)。そこで船中皆,声を揃え観音の名号を唱えると,海上に不思議なものが現われる。まず仕丁が長櫃を担いで通り,次に白鞍を乗せた葦毛の馬を八人の舎人が引いて通る(no.鎧に五枚兜の緒を締め,き月毛の馬に乗って現れ,松浦の船に向かって紅の扇を上げて,「とまれとまれ」と,さし招く(no.54'p.549,l. 3■ 5)。これまでの不思議は武文の怨霊であったと,小舟を一艘下ろし,これに水主一人と御息所を乗せて波間に押し出した(no.55'p.549,l. 7■ 8)。するとにわかに風が吹き,松浦の船は西に向かって進むことができる。しかし,ーの谷の沖合いで激浪がついに船を転覆させ,松浦一党は海底の水くずとなったのであった(no.56'p.549,l.12■14)。その後は波風が静まり,-202-

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