4'no. 8'no.10'no.48'no.49'no.50などの画面では,湾曲が意識的に構図に取り込まこには,物語絵画としての図様の伝統と扇面という画面形式の特性の,さまざまな関わり合いのあり方が現われている。先行作品での図様の定型や各主題の構造は,画面を大きく方向付けてはいるが,同時にここには扇面画の面白さ,趣向が充溢しており,それは三話とも共通して現われている。特にモチーフの放射状配置や湾曲構図が見事な緊張を創り出していることは,特筆すべき点である。本作品は,まさしく扇面構図の完成という土壌の上に開花した物語扇面画であるといえるだろう。たとえばno.3'no. れており,特にno.11では,土域や水景が創り出す湾曲と人物の放射状配置がいかにも扇面にふさわしい構成をなしている。またno,20'no.21などでの空間の深い奥行き。更に,no.13での情景の大きさ。いずれもゆったりとした金雲が空間を巧みに調整し,華麗な色彩と明快な構成が,気分の大きい表現を支えている。さて,本作品は長信筆と伝称されてきた。果してこのアトリビューションの妥当性はあるのだろうか。様式的に見て,これば狩野派画人の手になることは明らかであり,時代的にも匪顧はない。しかも速く力強い線描,破綻の無い構図,景物描写の堅実さ,金雲のゆったりとした構成など,優れた技量を持つ画家が想定される。樹木や文様など細部には,筆致の違いが指摘でき,工房作ではあろうが,その中心となった画家が長信である可能性は否定できないだろう。人物(特に女性)の面貌は,その特徴ある表情や瞼,唇の描写が「花下遊楽図」と酷似していることは興味深い。また樹木や岩の描写にも相似したものを認め得る。扇面と屏風という画面形式の相違がある限られた作品での比較を以て,軽々に筆者の一致を説くことはできないが,少なくとも,かなり近い関係にあることはいえるだろう。-206-
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