鹿島美術研究 年報第7号
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ゆく対照となった。彼によって創り出された女性達は,るものである。女性達の顔は,豊頬長領のいわゆる瓜実顔であり,髪は唐輪髯に結っている。勝以(又兵衛の印)は,狩野派創造の風俗画に新たな血を流し込み,江戸初期の浮世絵発展上,主要な役割を果した。その画風は,細く流れる様な水墨線と,凝った軽やかな色彩とを巧妙に組み合わせたもので,大和絵の色彩の影聾を受けたぼかした色の衣裳,及び漢画(MOA美術館)に連なる海北派風に描かれた樹木が,伊勢物語図に見られる。絵画というものに精通した又兵衛画風融合の他の例としては,源氏物語野々宮(出光美術館)があげられ,描線は白描絵のそれで,色彩や金地着色は土佐派のものである。この混合は,辻教授によると和漢画と呼ばれるもので典型的な又兵衛の作品といえる。多数の作品が彼の作とされ,そのほとんどが勝以や道の印がある彼の作であり,それ以外のものは彼の弟子達の作品であり,又兵衛の生活感覚が見られない。浮世絵の発展によって,絵師は当時の流行に添って美人を描写する事が出来た。菱川師宜,懐月堂安度,安知は,背景無しの一人立美人図という画流に添った。しかしながら,背景はそれによって一つの動作,身振りを再構成出来うるという意味で徐々に重要な役割を演じる様になっていった。対角線と西洋の遠近画法を採用する事によって,奥行きと空間を創造してゆくのである(豊春春章)。I.美術館においての研究A)東京国立博物館・「時代不同歌合絵」紙本。28.4 X 50. 1cm。室町時代。・「女三十六歌仙絵」紙本。26.6x 669. 5cm。・「業兼本歌仙絵:源順」紙本。鎌倉時代。・「新三十六歌仙絵」狩野探幽。絹本着色。・「妙然像」紙本。66.8X 37cm。室町時代。・「土佐光信筆:星光寺縁起絵」紙本着色。文明十九年(1487)。33X1.063cm。時代初期の絵画に於いて特別を占め-226-

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