鹿島美術研究 年報第7号
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2.滞在の報告今回の滞在からは私自身,大学人としての立場からも個人的にも多くの知的関心を刺激されましたが,そこで得られた多くのことを詳細にすべて記すことができないのは残念です。私は大学では日本・東洋の美術については全く学んだことがなかったので,今回の滞在では,この未知の領域の新参者として数多くの作品を発見しました。それは全く啓示とも言えるもので,今後私の心中に深く長く印象を刻みつけるように思われます。当初は日本の古代から現代の彫刻をできる限り数多く見たいと考えましたが,時間の制約のなかで,その許すかぎりにおいて私の希望は満たされたと思っています。ただし専門的な知識が欠けていたため,研究者としてこれらの作品に充分に接することができませんでしたが,私の基本的な質問にも快く答えて下さった多くの人に心より感謝します。ここで得られた経験によって,私の彫刻の研究は一層精密で洗練されたものとなることでしょう。またこの機会に,私は日本の大学,美術館の年来の友人たちと旧交をあたためると同時に,新しい知己も多く得ることができました。教育者,指導者として高階教授の年来の指導の効果と,西洋美術を学ぶ優秀な若き学徒たちの科学的探求の態度と成果に触れることができたのもおおきな喜びです。たしかに日本の若い世代の西洋美術研究については聞いてはいましたが,実際に自分の肌をとおして確かめたことは今回が初めてです。彼らと美術の方法論,研究の目的などを議論したのはたいへん有益でした。今回の私の講演や彼らとの議論が多少なりとも彼らの学問の向上に益するものとなることを願ってやみません。最後に,多くの恩恵を授かった旅行者として,今回の旅行をとおして現代の日本の触れることができたのは,個人的にとても心楽しくありました。過去の芸術を理解するだけでなく,現代日本の芸術とも積極的に接しようとすることで,美術史家としての資格を取り下げることもなく,私はこうした経験を味わうことができました。同時に,歴史の中でまた今日においても美術教育がどのように行なわれているか知りたいと思い,大学や美術館などについてさまざまな質問をしましたが,いつも懇切な応接をしていただきました。以上かいつまんで今回の私の滞在の内容について記しました。高階教授,大野,山下助手を始め,訪れた先々で数多くの方々からの心のこもったもてなしをしていただ-237_

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