(2) 海外派遣① 大正期の新興美術とヨーロッパの前衛美術研究者:筑波大学芸術学系講師五十殿利治研究報告:このたびの調査は1989年11月11日から12月3日までドイツとイタリアで行なった。ドイツでは西ベルリンとデュッセルドルフで村山知義を中心とする日本の新興美術にかかわる作家たちの足跡をたどることを眼目とし,以下に述べるようにほぼ所期の目的を達成した。また,イタリアではローマに短期間であるが滞在し,神原泰の関係資料の収集を第ーの目標としたが,これについても成果を得ることができた。ベルリンでの調査は,1922年,村山知義,和達知男,永野芳光によるヨーロッパ前衛美術家との交渉を具体的に探ることをめざして以下の人々に会見し,1920年代の美術運動全般にわたり意見を交換することができた。その際,筆者がこれまでの調査で明かになったことをまとめた英文による論文,また和達の仕事をはじめて紹介した神奈川県立近代美術館主催の「ワイマールの画家たち」展のカタログなどを持参して,議論をすることにした。すなわち,イタリア未来派で,ベルリンを拠点にして画廊を運営し,村山や永野に加えて東郷青児などの作品をあつかったルッジューロ・ヴァザーリの研究者であるヴォルフガング・ベルナー氏,元ベルリン美術館長で,この時代の美術について多数の著作のあるエーバハルト・ロータース氏,同じくディーター・シュミット氏,美術ジャーナリストのジャンポール・ゲルゲン氏等である。ベルナー氏は以前来日し,ちょうど開催中の「1920年代・日本展」を観ており,村山たちの活躍についてすでに充分な知識をもち,具体的な情報交換を行なうことができた。とくに,永野作品の所在について貴重な情報を得,またほかの点でも数々の示唆を与えられた。ロータース氏は持参した資料について意想外の関心をしめし,今後の協力を約束してくれた。また,筆者の出発後に一般公開される予定であったベルリン美術館でのハナ・ヘッヒ展の会場を事前に見学できるように取り計い,さらに同美術館のシュルツ女史にも紹介の労をとってくれた。女史も村山等の活動に関心をしめしただけでなく,「ベルリン一東京」展の企画について示唆した。このことについては,1)ベルリン(11月12日〜22日)-239-
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