鹿島美術研究 年報第7号
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② アクロポリス(アテネ)出土アッティカ製赤像式壺絵の研究研究者:大阪市立大学文学部教授研究報はじめに社(西ベルリン)から出版したが,その資料は欧州所蔵のKylix(杯)を中心に実地にした完形品517点であった。前記著作では,いわばマクロの視点から,杯のプロポーションとその上に画かれる壺絵との関連を総体的に把握する試みを行った。爾来,アッティカ壺絵の研究は筆者の主たる関心の一つとなったが,その中でも,未だ充分に研究されているとは言えない,絵画技法の調査を行いたいとの希望をもっていた。今回,「美術に関する調査研究」の助成を受けての調査目的は,前述のとおり,いわばミクロの視点からの壺絵そのものにかかわる「技法」の精緻な観察と,もうひとつ,定の為の資料としての調査の2点にあった。後者に関しての結論には,まだ時間を要するので,ここでは前者について報告をすることにする。I.調査方法について1.アクロボリス(アテネ)出土陶器の質の高さは,E.ラングロッツの研究以来よく知られる所であるが,それは,発見場所が,アッティカ陶芸の中心地アテネの中央に位置することと,アクロポリスが通常の生活の場ではなく,一種の《聖域》であった事と深い関係があると思われる。つまり,出土陶器の多くは奉納品であったと考えられるのである。この事実から,調査対象の陶器が,アッティカ陶芸史学上の基礎資料であることが知られるのである。今回整理されている赤像式陶器片1073点(装飾陶板を含み赤色のみの陶器を省く)のうち625点を調査。調査陶器片の対象は,BeazleyのARV勺こ見える絵師93人と陶器の種類24種におよんだ。破片であることは壺絵全体の構図を知るうえでは致命的欠陥を有するが,壺絵表面1985年11月に,‘Untersuchungenzum Verhaltnis von Gef註llformund Malerei attischer Schalen”(『アッティカ杯における器形と装飾の相関について』)をGebr.Mann 1982年以来研究テーマとしている,アクロポリス上の《古パルテノン神殿》の年代決A.アクロボリス出土陶器を調査対象に選んだ理由2.調査可能なサンプルが豊富であるため。3.調査対象の陶器の大半が,10センチ程度の破片であるため。関隆志-243-

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