鹿島美術研究 年報第7号
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ベルギー時代のロダンの様式展開に注意して,改めてロダンの全貌からこの初期の時代を再考するのに良い機会であったことは言うまでもない。〔3〕まとめ今回の調査研究では,成果として後にまとめられるであろう,テーマを区切った研究論文のための資料収集と,作品の実見と意見交換による直観的了解において大きな成果があったと思われる。その反面,一般的に言える近代彫刻研究の立ち遅れはもとより,ベルギー本国の研究状況から発生する困難,未発掘,未整理の分野については課題を残した。例えば,それに関して残された方法としては,当時の雑誌,新聞等の定期刊行物の網羅的調査があると考えられる。これは今後の課題としたい。この研究助成金による私の調査研究の準備期間中に,故ゴルドシャイダー女史による前記のロダン作品のカタログ・レゾネの第1巻が刊行され,特にこの第1巻は私の研究目的に大いに役立ったこと,さらに知己を得ていた彼女の最後の労作を手にして,これからは,ロダン作品の個々の作品研究と総合的見直しの時代に入ったのだと実感した。作家と作品を育んで開花させた環境については,直接的に言える影響関係,つまり,作品相互の影響や作家自身の言葉,同時代の記事,評論等によって,もちろん論文では論理構成と実証による論証のスタイルは不可欠だが,そこでは抜け落ちてしまいがちな雰囲気やムード,風土というか息吹があり,時代は隔たっていても,直接現地で作家の感じていたであろうその息吹を感じるのは,研究者にとってこのうえない喜びであり,また,論文にはならないまでも,あれこれと想像してみることは重要なことであると思われた。私個人のライフ・ワークとして数年がたち,また今後も続くロダン研究にとって要な一歩となる機会が,貴財団の助成金によって実現できたことをここに感謝したい。-251-

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