鹿島美術研究 年報第7号
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新・井手誠之輔•井上一稔・長岡龍作④ メトロポリタン美術館所蔵日本美術作品の調査研究研究者:東京国立文化財研究所研究員島尾【本調査の背景】東京国立文化財研究所では,1988年度より在米の日本美術作品についての基礎データのデータベース化とカタログ作成のプロジェクトを進めている。基本的な目的は,美術史研究者間における基礎データの共有化と研究交流の促進にある。本調査の準備としては,1988年度科学研究費補助金(海外学術研究)により,アメリカ合衆国の46美術館・博物館・大学(表1)にアンケート調査を行い,本プロジェクトについての意見を求めた。その結果,本プロジェクトに対する大方の賛同を得ることができたが,その一方で,日本にあるコレクションのコンプリヘンシヴ・カタログが未作成のまま,何故海外のコレクションの調査を先行させねばならないのか,という批判もあった。本研究では,上記プロジェクトのパイロットモデルとして,ニューヨーク・メトロポリタン美術館の大西宏氏,バーバラ・フォード女史の御協力を得て,同館所蔵の絵画・彫刻の調査とデータベース化を行うとともに,データ形式および共有化の方法について同館の日本美術関係者との協議を行った。また,本来長期的な展望と継続的な予算措置をもって行うべきこの種のプロジェクトに鹿島美術財団から単年度の補助金を頂いたのは,当初の財源とした科学研究費(海外学術研究)の申請が予備調査費しか認められず,継続的な予算措置を待つ間の危機的な状況のなかで,プロジェクトを維持してゆく窮余の策であった。御援助を頂いたことによって,調査を快諾して頂いた海外の研究者との信頼関係を損なうことなくプロジェクトを継続し得たことについて,深甚の感謝の意を表する次第である。なお,本プロジェクトは,1990年度より,芸術文化振興基金の援助を得,古文化財保存研究会を活動母体として,向う五カ年の計画で実現可能となったことを申し添えておく。【基礎データの収集】メトロボリタン美術館には,約560件の絵画と150件の彫刻が所蔵されている。本研究では,短期間での全作品調査は不可能との相互認識に基づき,先方の格別の理解のもとに次のような方法でデータを収集した。1)アクセッション・カードのコピー-252-

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