鹿島美術研究 年報第7号
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配慮されている。一時に多数の案内を設置することは不可能にしても,近隣の中・韓を含めた複数の外国語には対応すべきであり,当然日本全国からの来訪者にも応えなければならない。さて本題の“広報”であるが,各館ともこれには相当の重点を置いている。わが国には「玄人向けの良い展覧会には人が入らない」という皮肉な言い方があるが,いくら質の高い有益な企画であっても,今何が催されているかを一般人に周知させないことには見ていただ<訳にはいかない。その媒体として二つの方法がとられている。一つは館の展覧会企画や講演会・アトラクション等の諸行事を印刷した数ページの“カレンダー”“パンフレット”等のダイレクト・メールによる送付であり,他は報道関係者や学校に送付する“キット”と呼ばれる二つ折のファイルに入れられた,展覧会の概要説明,主要作品の解説,焼付写真,カラースライド等の詳しい案内書で,ファイルのポケットには必ず担当者の名刺が挿入されている。またこのキットは申し込んで入手することもできる。キットの表紙が展覧会のポスターや目録の表紙図柄と統一されていることも印象付けるためには重要である。これによって展覧会のプレ・ヴューには多くの報道関係者が参列し,誌(紙)面や影像を通じて世間に周知をはかってくれるが,どの館でもテレビジョン放映が最も有効であるとのことで,ポスターによる広報は既に時代に遅れた感を抱かされた。広報担当者はこれらに対するレセプションや要人の接待にも当り,担当学芸員と共に目録の製作を行っている館も多い。わが国のように美術品それ自体が持つ材質的な脆弱さの故に数多くの陳列替を余儀なくされる場合,せめて各館の名品に関しては陳列期間を1■2年の周期で予告できればと痛感する。今一つの“教育”は各館共最も重視するところである。確かに初めて博物館や美術館を訪れた人にとっては,名品と出くわし芸術的な感動は受けたにしても,その作品が作られた時代的な背景や製作事情・作者に関する情報などを知識として得たいという要求は強いであろう。これに答えるのが教育プログラムである。その内容も児童・生徒を対象とするものから,一般人に至るまで理解度に応じて数段階に分けているところが多い。学校に対するそれは,手紙や電話による申し込みに応じてドーセントと呼ばれる博物館の先生が時間を指定して行うのが一般的であるが,児童•生徒に対してだけではなく,引率する学校の先生を対象に行われることもあり,ドーセントが地域社会の学校に出向いて事前に講義することも少くないようである。また小学校低学-258-

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