2.国際交流の援助① ヨーロッパにおける修復技術および材料についての研修(昭和63年度助成)研究者:山領絵画修復工房油彩画修復家渡辺健一研修報現在の日本では,画廊や個人収集家はもとより,国公立の美術館の収蔵品についても油彩画や現代美術に関する限り,これらの保存・修復の殆どが民間の修復家の手に委ねられている。また近年,欧米の美術品市場として日本が注目を集めており,企業や個人が収集した作品をもとにした美術館の建設も,一種のブームになっている。加えて,日本の洋画でも戦中,戦後の混乱期に,雨ざらし同然の状態に置かれていたものの損傷が進み,その処置が急務である作品が少なくない。日本の美術館や研究機関には,この様な状態に対応できる保存修復の施設や人材が殆ど無いのが現状である。こうした状況を反映してか,保存・修復に必要な専門の材料を提供してくれるメーカーも皆無に等しい。素材メーカーは,工業国日本である以上数多くあるが,発注に応じてくれる単位が,こちらの希望するグラム,メートルではなく,トン,キロメートルで,加えて微妙な加工にはどの企業も難色を示す。したがって,新しい技術の情報や主要な修復材料の入手は,欧米に頼らざるをえないのが,実状である。こうした状況こそが,我々修復家が欧米に赴いて,研究や研修を行わなければならない最大の理由となっている。ムを研究した際の経験をふまえ,ヨーロッパの公立美術館の修復室や民間の修復家を訪問するとともに,世界各国に修復材料や機具を提供しているスイスの企業を訪ずれ,製造過程や製品を見学し,それらについての詳細な資料を入手した。今回訪問した場所および概要は,以下のとおりである。西ドイツ,ジュッセルドルフ市立美術館,市立修復研究所_ここは,以前に研究の為滞在したメトロポリタン美術館などと比較すれば,かなり規模の小さな美術館ではあるが,充実したコレクションがある。また,修復研究所は美術館とは独立した施設(1) 海外派遣, 1987年〜88年に米国の巨大美術館の修復研究室において修復技術やシステ269_
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