鹿島美術研究 年報第7号
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で,機能的な修復調査室をそなえている。地上2階地下1階の建物の中に,修復をはじめ作品の組成,状態の調査をおこない,その対象も,絵画のみならず陶器,立体,紙作品など美術館が所蔵する全ての作品や地域にある美術品に対応できる設備と人材が整っている。特に映像による調査では,500号近い作品をミリメートル単位で動かせるイーゼルに載せられた作品を,8 XlOインチ写真をはじめプリンターを備えた赤外線・紫外線ヴィジコン設備があり,作品の状態調査に威力を発揮している。案内をしてくれた所長のDr.アルト・ヘルファー氏はM.デルナー研究所の出身で,美術史や修復技術に深い造詣をもっている。ノルト・ライン・ウエストファーリン州立美術館修復室_ジュッセルドルフ市内に新設された少卜1立美術館で,主任修復家のフィンケス氏によるマーク・ロスコーの作品群の修復作業を見学。ラスコー・レスタウロ―ースイス,チューリッヒの郊外にある修復機器・材料の国際的なメーガ—。4階建てのオフィス兼工場には社長のアロイス氏をはじめとして,か30人程の社員が働いている。世界的な知名度に比べ,そのこじんまりとした規模には少々驚いたが,ここが各国ヘ我々修復家が必要とする様々な材料を提供している。ここでは,樹脂やフィルム,支持体等について資料を得るとともに,開発中の塗装用のブース,紙作品用のチェンバーやサクション・テープルについて説明を受け,また工場内を見学した。個人工房_西ドイツ,ケルン市,クーピッツ氏,スイス,ジュネーヴのアネックス氏の工房を訪問。クーピッツ氏は油彩画の,アネックス氏は紙作品の修復家である。両者とも筆者同様,個人工房を主宰しており,それぞれの国の事情を聞くことができた。パリ,ルーヴル美術館一ヴェロネーゼの大作,「カナの響宴」の修復作業を見学。この作品は大き過ぎたために修復室に入らず,展示室で公開のまま作業がおこなわれた。作業用の足場のまわりに,内部が見えるようにアクリルで囲いをし,過去の修復時の資料がパネル展示されていた。マドリッド,プラドー美術館一ヴェラスケスの大作,「ラス・メニナス」の画面洗浄についての資料をえる。今回の研修課題は,以下の3点である。1.修復に最も汎用されている膠,ワックス,合成樹脂の単独あるいは混合による実-270-

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