鹿島美術研究 年報第7号
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このように,膠やワックスから合成樹脂へと徐々に移行しつつはあるが,これによって,完全な修復方法が確立した訳ではない。米国では既に,現代絵画を処置する機会が多いこともあって,修復技術の開発や,どこまで現時点で処置を行うかという「修復倫理」についての議論が起こっている。ヨーロッパではまだそれほど深刻に考えられていないという印象を受けた。米国に比べて修復を必要とする膨大な古典絵画をかかえる彼等にしてみれば,「理想的な修復方法が確立されていない以上,伝統的な方法でやっていくしかない。」というところかもしれない。しかし,いずれにせよこの倫理やそれに基づいた技術の開発は急務の課題となっている。集めた資料と,材料の整理や研究は現在継続しているが,今後,絵画修復の伝統の外にあり,その技術開発に遅れとってきた日本も,独自の技法や体系を構築する時期にきているように思われる。273-

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