(2) 国際会議出席① 文化財の虫害および徽害防除の目的で使用されている薬剤の化学的性質の分折と美術材料への影響(昭和63年度助成)研究者:東京芸術大学美術学部保存科学研究室研究報告:日本は比較的温暖多湿な気候条件にあり,かつ日本の文化財は,その素材が木や紙といった虫や菌に好まれるものが多い。そのため,私達日本人は昔から日常生活において虫や徽による被害防止のために様々な対策をおこなってきた。近代になってからは,化学薬剤を使用しながら文化財の保存が図られている場合が多い。しかし化学薬剤は,虫や菌に対しての効果が早いが故に,文化財に対しても化学変化による影闊が起きるかもしれない。長い人類の歴史の中での貴重な所産である文化財の保存・修復の目的でとる処置は,決して悪い影縛をおよぼしてはならないことが鉄則である。そこで,私はカナダ国立修復研究所において,私を含めた5人のスタッフと協同で,日本で作られた手漉き和紙について,化学防虫・防徽剤を使用した場合,影聾が見られるかどうかという問題について調査研究をおこなっている。本研究課題のための供試和紙は,日本およびカナダの国立修復研究所においても,裏打ち用和紙として使用されている日本製の手漉猪100%紙である。この猪紙に対する影聾の有無の比較の対象とした供試紙はゼロックペーパーおよび新聞紙を用いた。そして,日本の多くの博物館・美術館および図書館において,防虫・防徽剤の目的で使用されている燻蒸剤の中で,エチレンオキサイドガスを今回の供試薬剤として実験をおこなった。カナダ国立修復研究所において,“ゼロスパン”(米国PULMAC社製)という紙質強度測定機械を使用して,燻蒸前後の紙質強度の測定をおこなっている。本機械を使用しての測定法は,従来日本の製紙会社でおこなっている紙質強度測定法とは異り,紙をぬらして,紙のセルローズだけについて強度測定する方法である。なお,実験研究は続行中であり,今回の報告の時期までに,実験の結果を見るまでには至らなかった。従って本研究についての報告は,次回に提出させていただくことにします。大変申し訳ございません。財団の助成を賜ることができましたこと心より御礼申し上げます。なお私は現在一時帰国中ですが,6月1日より再びカナダにて研究に従事致します。本年8月以後でしたら研究の報告ができると思います。貴財団での報告会において,もし今回の私杉山真紀子-279-
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