17世紀の初め,俵屋宗達らの創作活動に始まる琳派の流れは17世紀末から18世紀に室町期の絵画思潮を語る場合,漢画系の画家のみではなく,大和絵の伝統をひき,これを革新した大和絵系の画家たちの存在も看過できないことが明らかになってきた。室町後期の美術思潮を受けついだ桃山画壇においても,民間で制作された多くの大和絵作品,大和絵系画家と漢画系画家との共同制作などが明らかになるにつれ,同時代に大和絵の果たした役割が大きかったことは疑いない事実になってきている。特にその正系の立場にあった光吉の存在は大和絵画壇の動向を示す指標となるものである。しかし,その研究はあまりにも遅れているのである。このため本研究では土佐光吉とその工房の作品,またその動向についての基礎的な研究を基幹とし,ひいては同時代の大和絵諸作とも合わせて考察することにより,桃山美術における大和絵の果たした役割を明らかにするのが目的である。⑦ 近代日本版画史の研究研究者:筑波大学芸術学系教授藤井久栄研究目的:本調査研究は近代日本版画の展開を通史として論述すること,近代日本美術史上に版画をより明確に位置づけることを前提に,未だ不明の部分を調査し,明治期の版画と大正期以降の版画の接点を考察すること,大正・昭和初期の版画をより詳細に調査することを目的とする。近代版画については,作家の作品研究の版種別系譜の研究が個別になされているが,通史としての著述は小野忠重氏の著書を除けば皆無に近い。近代版画の研究は緒についばかりであり,本研究により近代版画史を実証的に論述できるならば今後の版画研究に寄与できると考える。⑧ 酒井抱ーにおける光琳画の継承と展開研究者:実践女子大学助教授仲町啓研究目的:活躍した尾形光琳へ,そして18世紀から19世紀初めの抱ーヘと受け継がれてゆく。家系と画系を同時に継承する狩野派のあり方がきわめて江戸時代的であったのに対して,琳派の画家たちの場合の画系の継承は,血縁的地縁的な面はおろか,職業的な20 -
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