鹿島美術研究 年報第7号
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⑩ ギュスターヴ・モローの「サロメ」について研究者:国立西洋美術館学芸課研究員研究目的:ギュスターヴ・モローは,近年ようやく「幻想の画家」といったヴェールを剥されて,基礎的な資料の公表等が行なわれるようになった画家である。既にP.L.マチューによって完成作品のカタログ・レゾネ(1976)やモロー美術館で公開されているデッサンのカタログ及びマイクロフィッシュ(1983),文章集(1985)が刊行され,次第にその実像が明らかにされてきているが,モロー美術館にはまだ数千点にのぼる未公開のデッサンや習作があり,J.ラカンプル館長によって整理・報告が続けられている。モローのサロメに就いては既にカプランの論文を始め,幾つかの論考があり,その象徴的意味,構想の展開,文学や世紀末芸術との関わりなどが論じられてきたが,イメージの生成の要因,特に同時代のオリエンタリズムの中での位置づけに就いてはまだ十分な考察は行われていない。フランス19世紀美術史では近年アカデミズムの画家たちに対する再評価が行われ,個々の画家の研究は勿論,制度や制作方法の問題,オリエンタリズムや宗教絵画などのテーマの問題,地方様式の問題などに対する研究が進められているため,そうした状況を踏まえた上で改めてモローのサロメのイメージを捉え直し,歴史の文脈の中に位置づけることが可能であると考える。そしてまた,この作業をひとつの例として,今日ではもっぱら社会的な視点を中心に研究が進められているオリエンタリズムを,19世紀にオリエントや中世の装飾が持っていた視覚効果やイメージの喚起力といった点から考える端緒としたい。⑪ 鈴本春信全作品目録作成のための調査研究研究者:学習院大学教授小林研究目的:近世絵画史研究の基礎は,個々の作品とそれを創造した作家に関する着実な実証的研究に置き据えられるべきこと,論を侯たない。しかるに,浮世絵史上もっとも重要な史的位置を占める画家の一人,鈴木春信について,従来の研究はなお断片的な検討を加えるにとどまり,それらを併せた総合的な作家の理解にまでは行き届いていない。その理由の一半は,春信の絵画世界の全容について展望しうるに足るだけの作品に関する充分な資料が公表されておらず,信頼のおける作品目録すら未完成というお寒い多崎親忠他1名-22

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