、viム口研究状況にある。こうした現状を打開するために,研究代表者小林と研究分担者田辺が既に集めた資料や研究成果を共に寄せ合い,新たに調査研究や検討・討議を加えて,密接な協力の上に信頼のおける全作品目録を作成することを構想した。近い将来に良質な写真図版入りのカタログ・レゾネを刊行すべく準備しようとするこの基礎的研究の意義はきわめて大きいと確信する。膨大な資料を収集,整理しようとするこの研究の性格上,少なくとも二年間の研究期間を要する。⑫ ドイツ・ロマン派における友情画の研究研究者:鳥取大学助教授高阪研究目的:ドイツ・ロマン主義美術の研究は近年,盛んになりつつあるが,これは19世紀美術の研究の進展にともない,求められてきた視野の拡大と視点の多様化によるものである。従来,フランス美術にばかり光があてられていた観のあった19世紀美術の研究も,今や,広がりと深みを得るにいたっている。本研究はこうした流れに属すものである。さて,18世紀から19世紀にかけてのドイツの美術家の場合を考えると,かれらは,フランスの場合とは異なり,いまだ16世紀に生じた宗教戦争による国土と伝統の分断の影聾下にあり,国家的支持基盤も,発展をとげた市民階級もないままに,孤独のうちに制作を重ねるほかはなかった。ルンゲやフリードリヒといった初期ロマン主義者や,少し時代が下る「ナザレ派」にしても事情は同じで,かれらは精神的支えを求めて,主観的に解された宗教的なるものを求め,祖国愛と友情をかれらの結びつきの元とせざるをえなかった。かれらの友情表現は造形上の厳しさを示すが,ここには,こうした倫理的ないし宗教的なものにまで高められた友情に対する熱い思いと強い主張が造形化されているのである。ロマン派における友情表現を眺めることは,ドイツのみならず多少ともフランスを含むヨーロッパの近代美術家のありようを如実に知ることにほかならず,またロマン派における様式のあり方についても示唆するところが大きいといえるであろう。加えて,印象派をくぐり抜けた美術家の作品や表現主義の作品においても,しばしば友情がとり上げられていることからしても,ロマン派における友情画の問題を考えることは,近代美術における主題研究の重要なひとつを抽出することにもつながると思われるのである。-23 _
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