⑬ スルバラン工房の組織とその運営た1964年までの時期は,マリア・ルイサ・カトゥルラ,セサル・ペマン,ポール・ギ(Martin Soria, The Painting of Zurbaran, London, 1953., Paul Guinard; Zurbaran et les peintres espagnols de la viemonastique, Paris, 1960.)ソーリアのカタログは研究者:大阪大学文学部文学研究科博士課程岡田裕成研究目的:本研究のテーマの決定に際しては,スルバランを含む17世紀スペイン絵画に関する今日もっとも活動的な研究者の一人であるジョナサン・プラウン,ニューヨーク大学教授の助言を受けた。ブラウン教授は,スルバラン研究の現状において,工房研究とその知見に基づく,より柔軟な形での作品帰属問題の再検討が現在の重要な研究課題であることを示唆して〈れた。その趣旨は既に,前頁の〈要約〉に反映したが,ここでは本研究の意義を研究史的な面から敷桁し,申請者の問題意識を明らかにしたい。貪窮と否定的な評価のなかで没したスルバランに対する再評価の動きは,1830年代のルーヴルにおけるスペイン派ギャラリーの開設に遡るが,その学問的,系統的な研究は今世紀に至って本格化し,とりわけ第2次世界大戦後,にわかに活況を呈した。戦後,特に,スルバランの没後300年を記念する大規模な展覧会がマドリードで開かれナールら,今日に至るまでのスルバラン研究を代表する論者を輩出するとともに,新作品,新史料の発見が相次ぎ,スルバランに関する研究は急速に前進した。この時期の研究の焦点は,概ね次の2点に概括できる。第1は,丹念な史料調査に基づいて,スルバランの伝記の空白を埋めようとする作業であり,とりわけカトゥルラによる精力的な史料発掘は,今日においてもスルバラン研究の根底をなしている。他方,本研究にも直接かかわるいまひとつの焦点は,新たに発見されたものを含む,スルバラン及びその周辺(エ房,追随者)の作品の整理,分類作業である。その成果はマルティン・ソーリア,ポール・ギナールによるカタログ・レゾネに集大成された著者がスルバラン自身の真作とする238点の作品を収録し,一方ギナールのカタログは,工房追随者の作品も含め,627点を主題ごとに分類・整理している。とりわけ,当時の段階としては望みうる限り包括的なギナールのカタログは,以後これを上回るカタログ・ワークがなされていないこともあり,今日なおスルバラン研究の最も基本的な文献とされている。しかしながら,個々の作品の帰属をめぐって,ギナールは非常に慎な判断にとどまった。-24 -
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