て,あまりにも強調され過ぎてきたように思われる。とりわけ,スルバランの作品を「隔離する」というペマンのことばに象徴される厳格な帰属判断の要求は,こうした今日的な状況,特に個性に重きを置く近代的な芸術家像をスルバランに投影しようとするものであるといってよい。いうまでもなく17世紀はルーベンス,ベルニーニに代表される大工房の時代であり,スルバランもまた当時のセビーリャを代表する大工房を従えていた。こうした歴史的状況に即し,単に巨匠の手を他と区別するための弟子,工房の研究ではなく,むしろ工房の役割を積極的に評価し,その活動の全体像,仕組みをまず明らかにし,その知見に基づいて作品帰属の指標を立てることが今日求められるところであり,本研究の最終的な目的もその点にある。その際,他のヨーロッパ諸地域とは異なったスペイン,ないしセビーリャの特殊な状況もまた重要な論点となろう。スペインにおける工房の問題に関しては,芸術社会学的な概説書(JulianGallego; る他,近年いくつかの踏み込んだ議論がなされている。マルティン・ゴンサーレスはて,工房の果たした重要な役割に注意を換起し,さらにその意図は,やや単純な史料収集に傾きがちであるが,フェルナンデス・デル・オヨによる特殊研究に反映されている(JuanJ. Martin Gonzalez; El escultor Gregorio Fernandez, Madrid, 1980., 家エルナンド・デ・エストゥルミオに関する研究のなかで,16世紀セビーリャにおける画家の工房,および同業組合gremioの問題に詳しく言及し,さらにエレディアは,る詳細な研究史料集を出版している(JuanMiguel Serrera; Hernando de Esturmio, これらにおいて共通して指摘されるスペインの工房の重要な特質は,その極めて「家El pintor de artesano a artista, Sevilla, 1976., Juan, J. Martin Gonzalez; El artista en la sociedad espafiola de siglo XVII, Madrid, 1984.)において若干の言及がみられ17世紀バリャドリードの彫刻家グレゴリオ・フェルナンデスのモノグラフィーにおいMaria Antonia del Fernandez del Hoyo;'Oficiales del taller de Gregorio Fernan-dez y ensambladores que trabajaron con el,'Beletin del seminario de estudios de arte y arqueologia de Valladrid, 1983)。また,セレーラは,16世紀セビーリャの画18世紀セビーリャ派に関するものであるが,画家,彫刻家,建築家の徒弟修業に関すSevilla, 1983., Maria Carmen Heredia; Estudio de los contratos de aprendizaje artistico en Sevilla, a comienzos del singlo Xl'III, Sevilla, 197 4.)。-26 -
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