鹿島美術研究 年報第7号
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などがわかってきたが,さらに他の具体例を密教図像の中にさぐることにより,仏教がインドだけでなく中国や日本の民俗信仰を複雑にからみ合わせて成立していることを明らかにするものである。このように,本研究で扱うどの問題も着眼点からして既に他に見られない独創的なものであると自負するとともに,そこから生まれる成果はこれからの画像研究・東西交流史・日中交流史に少なからぬ影特を与えるだけの価値を有すると考える。⑪ 19世紀後半のイギリス美術と日本の近代美術の関連性研究者:文化女子大学助教授藤田啓研究目的:イギリスの19世紀後半の美術を調査研究することの意義は,一つには現在に至るまで,この時期の美術がフランスを中心に考察されてきたことに対する問題の提示にある。確かに,フランス美術は,19世紀後半に至るまで,他国の美術に多大の影響を与えてきた。殊に,印象派の影響には極めて大きなものがある。しかし,イギリスにおけるその影響は,さほどのものではない。つまり,イギリス美術の流れを変えるほどではなかったと考えられる。とすれば,イギリス美術にはフランスとは異なる特質があったことになる。本研究の目的は,このイギリス独自の特質が何であるのかを,19世紀後半の諸作品から解明することにある。更に,この19世紀後半のイギリス美術が日本の近代美術に与えた影需を調査することによって,日本近代美術の特質の一端を,作品と美術理念の両面から明らかにすることにある。その為に,まず19世紀後半のイギリス美術,特にラファエル前派の動向を考察し,更に彼らとフランス印象派や象徴派の諸作品を比較検討することによって,19世紀後半のイギリス美術の特質を解明したい。次に,日本の近代美術とラファエル前派を中心とする19世紀後半のイギリス美術との関係を明らかにしたい。調査研究計画の要約でも述べたように,日本の近代美術がラファエル前派等の19世紀後半のイギリス美術を受容していった過程についての研究は,本格的にはなされていない。従って,まずラファエル前派と日本の近代美術を,実際の作品を基に詳細な比較検討を加えることによって,日本の近代美術における影響関係を明確にすることにしたい。次に,こうした影轡を受けた作品が日本近代美術史においてどのように位置付けられるか,について考察したい。こうした調査研究は,-33 -

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