日本の近代美術の特質を解明する為にも必要欠くべからざるものであると考えられる。更に,近代日本における美術愛好に関する諸問題を再考する為に,美術作品の収集に多大の貢献をした松方幸次郎が,購入した19世紀後半のイギリス美術作品の全容を解明すると共に,日本に現存する関連作品を調査研究する。⑫ 富山本法寺蔵法華経曼陀羅について研究者:京都大学文学部助手原口志津子研究目的:本研究において,目指すところは二点ある。第一には,本法寺本「法華経曼陀羅」は,その価値が認められながらも,宮次男氏による紹介と考察以外,美術史的な専論が乏しいように思われるため,基礎的データを整備し,本法寺本の絵そのものの単一研究をものすることである。第二には,本法寺本「法華経曼陀羅」という仏教説話画の基礎的データの収集を通じて,モチーフと意味内容を対照しうる,一種の絵引きを作成するための序章となしたいのである。以下第二の点について補足する。申請者は,学部卒業時以来専ら説話絵巻を研究対象としてきたが,絵巻においては,仏教絵画において図像学が確立されているほどには,モチーフと意味内容が強固には結びついていない。しかしながら,絵巻に描かれたモチーフの中には,仏教絵画や仏教絵画の中でもやや世俗画に近いといえる仏教説話画に由来するものも少なくない。そのようなモチーフは,仏教絵画あるいは仏教説話画がもっていたもともとの意味内容を受け継いでおり,絵巻の絵に意味を与えている。絵巻に描かれたモチーフがすべてなんらかの意味内容を表わす記号であるとみて短絡的に絵を解読しようとしてはならない。しかし,絵巻の絵を見る時に,詞書には触れられていないモチーフが,当時の仏教説話画の慣習ではどのような意味として受け取られていたのかが解れば,十三,十四世紀の絵巻を詞書以上に読み込む手がかりを得ることもでき,新しい解釈が可能になる。つまり,ひとり本法寺本の考察に留まらず,絵巻における図像解釈に資することができるのである。また本法寺本は,中国画に由来するモチーフを豊富に含んでいるため,日中間の美-34-
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