術における影響の問題にも有益な観点を提供することができよう。⑬ 幕末期における江戸洋風画の新たな変貌過程としての北斎と広重の風景画研究者:東京芸術大学美術学部芸術学科大学院博士課程研究目的:来日当時の研究目的は,日本洋画からの影轡を受けて形成されたところが多い韓国近代西洋画発生期の究明にあった。来日以来これらの分野に取り組んでいるうちに,東洋でいち早く近代化を達成した日本の,その下地となった江戸後半期の社会が産んだ「江戸洋風画」の展開に関心が引かれるようになった。それは明治以後の日本近代洋画の基盤を作ったところでもあろうが,東洋における洋画定着の様子が鮮明に表われたところとして注目され,洋画の自己深化への道程をはっきり見せている。この観点から見た時,江戸時代における洋風表現は西洋画法の理論的な側面の把握をおき,初歩的な空間表現を試みた「江戸洋風画」という画派の初期段階と,それらを庶民の機智的,抒情的な感性に溶け込ませた風景版画への展開期とに大別することが出来よう。筆者は,従来,秋田蘭画および司馬江漢らによる初期段階における洋風表現究明に取り組んで来たが,それらを一層総体的に理解するためには,それらの発展段階としての風景版画(特に北斎・広重を中心とする)の研究が必要と考えられるようになった。北斎と広重の風景版画は基本的には版画という制作形式と,浮世絵という大衆芸術の特殊性に支えられている。そのため,彼らは西洋画の持つ斬新な見方を自分なりに自由に駆使し,また伝統漢画の見方もすてず,さらにこうした多様な見方と共に,対象のデフォルメをも加味して彼らの絵画的な「表現性」をより豊かにする方向に向っていることは興味深い。こうしたことは江戸洋風画の初期の段階では見られなかったことであり,この幕末期の風景版画における洋風表現の日本化の有様として注目したい点である。⑭ 額装本華厳五十五所絵の絵画史的意義研究者:文化庁文化財保護部美術工芸課文部技官小林達朗研究目的:日本絵画史上,な作品である新たに発見された「額装本華厳五十五所絵」1面-35 -李仲煕
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