鹿島美術研究 年報第7号
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⑮ 日本の近現代彫刻と写真の相互作用についての研究について,詳細な調査を行い,正確な紹介をすることが目的の一つである。また,この1面を含む,計21面の「額装本華厳五十五所絵」は,多くの問題をはらんでいると思われる。この問題を,上記の1面を支点として考えてみたい。これら21面の額装本は,一連の作品でありながら作風上に多様性があり,また画風の上から,やや漠然と平安時代の伝統的技法に基づいたものとされているが,その位置づけについて,必ずしも具体的に明らかにされているとはいいがたいのである。額装本の制作を調査の上整理し,それが,他の作品との関連において,いかに位置づけられるかを考えることが必要であろうと思われる。さらに,この額装本は,やや時代が下ってから,新しい様式で制作された「華厳五十五所絵巻」(国宝)に図像的な点で類似性をもつものである。額装本において,その日本絵画史における位置をはっきりさせ,性格を明らかにすることは,絵巻本との関連において,ひいては,平安時代から鎌倉時代にかけての日本の絵画の展開という重要な問題にも関連してゆくであろうと思われるのである。研究者:北海道立旭川美術館学芸員越前俊也研究目的:写真の絵画に対する影響について,海外作家ではアングル,ドラクロワ,マネ,、ュッシャなどの作品について具体的な事例が報告されている。日本でも高橋由ーなどは早くから写真の存在を意識した画家に数えられよう。一方,写真が絵画から受けた影響については野島康三と岸田劉生あるいは梅原龍三郎との関係を例に出すまでもなく,明治末からピクトリアリズムという言葉で要約される絵画的イメージを追求した数多くの写真が制作されていた。このように絵画と写真との相互関係については多くの研究,調査がなされているのに対し,彫刻と写真のそれに関しては従来ほとんど指摘された例が見られない。しかし明治から昭和の初めにかけて彫刻をめざした若者達が,写真により海外作品を知り,その影岬のもとに制作を行ったのは事実であり,彫刻家にとって美術写真が演じた役割は看過ごしできないものがある。この状況は彫刻,立体作品が印刷物というかたちで大量に流布し,実見されるよりよるイメージで人々の記憶のなかに定着される機会が多い現在においても同様-36

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