鹿島美術研究 年報第7号
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⑮ ジォルジエット・ド・モントネーの『キリスト教的百寓意図集(1571)』について研究者:富山大学専任講師岩井瑞枝研究目的:1571年,ジオルジェット・ド・モントネーの『キリスト教的百寓意図集』をリヨンで刊行したジャン・マルコレルは,その10年前の1561年,16世紀フランス最大の版画家であり,ジュネーヴと生地ラングルとを往来してプロテスタントとカトリックの―重生活を送っていたジャン・デュヴェの『図説黙示録』を出版している。そして『キリスト教的百寓意図集』の刊行後に,自らもジュネーヴヘと亡命した。16世紀の版画家たちは,出版業者たちとの密接な繋がりの下に制作にたずさわっており,両者が新しい知識の敷術に果たした役割は重視されねばならないが,アルプス以北では,彼らの多くが改革派の信徒であった。『キリスト教的百寓意図集』は,事実上寓意図(インプレーサ)の体裁を整えた改革派のプロパガンダであり,宗教改革期における図像の役割を研究する為の貴重な資料であると言える。また私は本年5月に「フォンテーヌブロ一宮殿の『フランソワ1世ギャラリー』」においても,壁画装飾のプログラムに意図の概念が反映されていることを指摘した研究を発表したが,本研究は,主に文学者の立場から研究が進展しつつある寓意図について,版画研究者の立場から綿密な仕方でアプローチをしつつ,宗教改革期の精神史と視覚美術の問題を探ることを目的としている。研究者:神戸市立博物館学芸員越智裕二郎研究目的:1543年のポルトガル船の来日とサヴィエル以降のイエズス会の日本布教は,江戸初期まで日本に南蛮美術という滋味豊かな美術鉱脈を残した。南蛮漆器は,その工芸の一分野である。当該調査研究の目的は,その南蛮漆器,とりわけキリスト教関係漆芸品や輸出漆器のまず原初形態から探り,イベリア半島にあるその原型,日本の南蛮漆芸品にとってはそのトランジションタイプともいうべきインド・ポルトガル様式のものとの比較考察,そして南蛮漆器における受容と変容,すなわち日本で加えられたオリジナリティをあきらかにしていくことである。R 南蛮漆器におけるインド・ポルトガル様式の影響-43

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