鹿島美術研究 年報第7号
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吉田博を研究して行くと,明治の洋画勃興期に,こうした黒田一派の考え方や行き方に疑問を呈し,真に日本人による日本人の洋画を確立しようとして努力し行動したのが,いわゆるヤニ派の流れをくむ不同舎と吉田博ー派であることがわかる。日本固有の伝統を意識し,その上に立脚した日本人の洋画をめざした彼等の理念と努力こそ,真に評価しなければならないのではないか。彼等の業績こそ,アカデミズムと言えるのではないか。このような疑問を確かなものにするために,吉田博を手がかりとして,不同舎とその仲間たちの詳細を解明し,これまでの日本近代洋画史研究の偏向に一石を投じたい。② スクロヴェニ礼拝堂(パドヴァ)におけるジョットの壁画構想とフレスコ技法研究者:金沢美術工芸大学助教授上田恒夫研究目的:壁画は建築空間をトータルに荘厳(装飾)する芸術であり,近世以降のタプロとは異なる独自の表現と技法が結実する前提条件がここにある。特にスクロヴェニ礼拝堂の場合,この前提条件はジョットの創作の動機に重なっていると思われるから,壁画全体の構想をとらえようとする本研究は,壁画装飾の中枢たる物語画そのものの表現世界の再検討にも有益な手掛りを与え,ジョット芸術の全体像の把握に向かって歩を進めることになるはずである。壁画装飾構想の課題は,リンテレンを先駆とし特に戦後欧米で顕著になったこの種の研究の動向(ロンギ,ホワイト,プロスドチミ,ジョセッフィ)に即しており,フレスコ技法の課題設定についてもミース,プロカッチ,ポアスーク,辻茂氏らによる戦後の研究を主な拠り所としている。我々はこれら二つの課題を統一的にとらえたい。これによって生成期のブオン・フレスコ技法を一挙に完成の域に導いたジョットの創造力の解明に向かいたい。そして,物語画の図像に力点を置いた佐々木英也氏の優れた研究の観点を補うものでありたいと念じている。③ ベラスケスとフェリーペ四世の宮廷ー17世紀スペイン・バロック画家の現実と想像ー一”研究者:跡見学園女子大学教授大高保二郎研究目的:の意味での日本の47 -

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