この展覧会はシュルレアリスム絵画を含むフランスの前衛絵画の実物が初めて多数展示されたものであった。当時の資料から,出品作品の中にエルンストの絵画2点「花」(1928年汲1364)と「森と太陽」(1927年汲1186)が確認できる。これらはともにエルンストがグラッタージュの技法を用いた作品であり,この展覧会はエルンスト独自のこの技法の効果を日本の画家が直に見ることのできた初めての機会であった。三岸が作風を一変させ,翌年の第3回独立展に釘彫りのようにひっかいて下地の色を出す方法を使った作品群を発表したことは単なる偶然ではないだろう。子供の遊びがこの方法の直接のヒントになったとしても,例えば「花」(北海道立三岸好太郎美術館蔵)の抽象的な画面が生み出す幻想的な効果には,ェルンストの作品を直接見た経験が生かされて・いるのではないだろうか。昭和10年頃からシュルレアリスム絵画の日本への紹介はより活発になり,日本でも多くの画家がシュルレアリスム的な表現を試みるようになる。エルンストはこの頃から,繁茂する植物を画面全体にイリュージョニスティックに描いた一連の作品を発表したが(汲2262■2275),こうした作品もいちはやく日本に紹介されているので(例えば「みづゑ」昭和12年5月号)日本の画家たちに影響を与えたことであろう。後に美術文化協会に結集する霰光,米倉寿仁,浜松小源太,小川原脩,吉川三伸などが植物的なモチーフをさかんに用いて幻想的な作品を描くようになるのは,この少し後のことである。-65
元のページ ../index.html#89