鹿島美術研究 年報第8号
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⑫ 阿蘇山系およびその周辺の寺院等における美術工芸品(仏教彫刻)の調査,研究永11年(1274)に建立した満願寺(真言宗南小国町)など寺院も数多く建立されて175.0cm),木造十一面観音立像(像高170.5cm)木造毘沙門天立像(像高134.0cm),研究者:熊本県立美術館学芸員有木芳隆研究報はじめに熊本県の東北部に位置する阿蘇山とその外輪山の一帯は,「日本書記」のなかですでに「阿蘇国」と記されるなど,阿蘇神杜を中心に山岳信仰の対象として古くから知られている。また,天竺毘舎利国の最栄読師が神亀3年(726)に十一面観音像を刻み,礼拝したのがはじまりと伝えられる西巌殿寺(天台宗阿蘇町)や,九州に下った北条時定が文いる。この地域の寺社堂宇の美術工芸品(とくに仏教美術)に関しては,かつて熊本県立美術館によって一部が調査され,報告されているが(「県内主要寺院歴史資料調査報告書(1)昭和57年),なお未調査の堂宇なども多く,これからの課題となっている。今回の調査では,未調査の地域のうち,中世の阿蘇地方の一中心であった南郷谷といわれる一帯の寺院堂宇,および千光寺(南小国町)などの特に仏像について調査を行った。また,阿蘇郡ではないものの,尊像のまつりかたなどから阿蘇・天台系の寺院に関係かあるのではないかと考えられた報恩寺(熊本市)の木造十一面観音立像の調査成果についても報告したい。南郷谷の寺院堂宇の仏像について阿蘇地域の中心的な寺院は,阿蘇山三七坊の別称でもある西巌殿寺(天台宗阿蘇町)であるが,本寺には平安時代後期から江戸時代におよぶ仏像が多くまつられている。そのなかで主な作例は,平安時代後期頃の造像とみられる木造不動明王立像(像高鎌倉時代の木造大黒天半珈像(像高36.3cm),木造十一面観音立像(像高138.9cm),木造不動明王立像(像高126.5cm),木造元三大師坐像(像高75.3cm),木造開山最栄読師坐像(像高84.5cm),木造僧形坐像(像高40.4cm),木造僧形坐像(像高87.9cm),また,南北朝時代頃の造像と考えられる,木造釈迦如来坐像(像高70.3cm),木造不動明王立像(像高34.3cm)などである。-124

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