鹿島美術研究 年報第8号
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た,像内には,絹本淡彩十一面観音画像も納入されており,この画像は別の納入品の銘文から建長6年(1254)に描かれたこともわかり,まことに貴重な作例である。熊本県内では,本像のほかにも,宇土市の如来寺の木造釈迦如来坐像も正元二年(1260)に寒巌義手によって造立されており,寒巌派の造像活動が活発であったことが認められる。本像は,これからの九州の鎌倉時代中〜後期の彫刻史研究のなかでも見逃すことのできない作例といえよう。おわりに阿蘇地方は,阿蘇神社や西巌殿寺,満顧寺などを中心に,九州における山岳信仰のー中心であった。今回の調査では,とくに南部の地域を中心に寺院堂宇の彫刻を調査したが,これらの成果をふまえて,より広範な地域の調査,資料の博捜を続け,九州の中世の仏教美術を研究していきたい。また,このたびの鹿島美術財団研究費助成によって,寺院堂宇や資料の調査や研究が可能となったことに感謝したい。127

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