鹿島美術研究 年報第8号
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⑬ ラコニア地方(ギリシア)を中心とするビザンティン教会堂とその壁画1075年の建立のヴァンヴァカ村の聖セオドロス聖堂は,聖ストラティゴス聖堂と同研究者:東海大学教養学部教授長塚安司研究報現在ギリシアのラコニア県は4つの郡に分けられる。つまりエピダヴロス・リミラ,ラケデモノス,ギシオン,そしてイティロンである。エピダヴロス・リミラ地区には,円蓋式聖堂の様々な建築様式が見られる。また交差弯窟式が存在しないこともこの地の一つの特色と言える。ラケデモノス地区はミストラとゲラキに修道院及び聖堂が集中している。ミストラでは,聖セオドロス聖堂のようなダフニ型のギリシア十字形プランの聖堂の他は,皆3廊形式を取り入れたいわゆる円蓋式バシリカ聖堂を形成している。そして2柱式のペリプレプトス聖堂においてもその影響が見られ,身廊西側が伸びている。ゲラキでは,4柱式聖堂,単身廊円蓋式聖堂(受胎告知の聖母聖堂)や筒形弯窪式聖堂の他に,特に交差弯窟式聖堂の多いのが目立っている。ギシオン地区には,あまり多くの聖堂が見られず,その特色となる要素が認められない。プラッツア付近のいわゆる上マニ地区(実際はメッセニア県カラモン郡)は,聖ニコラオス聖堂のように早くに建てられた3廊式バシリカ聖堂(900年頃,後に円蓋を付加)もあり,4柱式,単身廊円蓋式,交差弯窟式などの聖堂があって変化に富み,2柱式が見られない点にも特色がある。建築構成及び図像に於いてイテロン地区との関係も認められるが,ラケデモノス地区との関係がより強い。例えば建築では交差弯窟式聖堂(プラッツァの聖金曜日聖堂など)が見られ,そして図像配置ではノミツィの救世主変容聖堂がミストラの諸聖堂との一致を見せている。イテェイロン地区(通称マニ地方)においては,初期キリスト教の遺跡もあり,早期にキリスト教が伝わったこと,キタ村近くの聖アソマトス,ブリキ村の聖レオン,コトラフィ村の救世主聖堂など,10世紀頃の建築も認められ,ビザンティン美術の隆盛期が早くからあっとたこと,そしてヴァンヴァカ村の1075年の建立(銘文による)とされる聖セオドロス聖堂を始め,llOO年を前後する時期に多くの聖堂が建てられたことが知られる。イティロン地区では2柱式聖堂が独自の発展を遂げ,特に身廊西翼とナルテックスとをつなぐ弯窪構造にそれが見られる。様,2柱式を示し,西翼部の筒形弯窪がそのままナルテックスの中央弯窪となって,その両者を仕切る壁,つまり身廊の西壁の中央部が形成されず,ナルテックスから身128-

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