鹿島美術研究 年報第8号
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⑭ 源氏物語の絵画化における場面選択の歴史的諸相の研究研究者:堺市博物館研究員井渓研究報本調査は,源氏物語の絵画化(以下,源氏絵と略する)された多数の場面を整理し,かつ新しい源氏絵を博捜することにより,より充実度の高い源氏絵マニュアルを作成することを目的に行ったものである。このマニュアル作成は調査者がすでに数年前より継続して行ってきたが,本調査により一応の終了を見ることを目標にした。今回の調査は,本助成以前に調査者が行った国内における源氏絵調査とは別に,として国外,とりわけアメリカにおける源氏絵調査を主眼とした。なかでもニューヨーク・パプリックライプラリーのスペンサーコレクション中の源氏絵調査に大半を費やした。スペンサー・コレクション所蔵の源氏物語関係の諸作は,写本・版本類を中心におよそ15件ほどが確認出来る。そのうち12件を源氏絵との関わりで調査することがかなった。いずれも,以前国内にあり由あって同コレクションに納ったものばかりであるが,中には国内で現在確認出来ない貴重な作品が含まれている。今回とりわけ調査者が関心を持ったのは,冊子本の「源氏物語五十四帖」(No.129)であった。これは多数の源氏絵を挿絵的に含んでいる点で,今回の調査目的にかなう最適の資料であった。体裁および本文と挿絵の概要から,江戸中期頃の作と考えられる。作画も特別念入りに描かれている訳ではなく,またある場面では粉本の写し間違いか,あるいは筆者の描き忘れかの判定は難かしいが,その場面に必要な諸要素が欠落している場合も見受けられる。さらに場面全体に描出の簡略化,抽象化,さらに形式化が進んでいる点も多々見受けられる。このように,まま不十分な点も指摘できるが,全体にその描出場面の多さと,従来知られている場面に加えて珍らしいと思える場面も多数含まれている点で注目に値する冊子であった。この冊子により,以前調査者が行った源氏絵のマニュアル作成(堺市博物館昭和61年度秋季特別展「源氏物語の絵画」展図録所収)を一層拡充する上で大いに役立ったことが,今回の調査の収穫の第一であった。以下,この冊子本の新知見を加えて別表において,調査者が現在までで確認した限りの源氏絵を整理した場面比定を試みた。この作業において,実際の場面の有無を考えずに抽出すると,源氏絵場面は約460余を数えることが出来る。しかし今述べたように,例えば大阪女子大学所蔵「源氏物語明-132

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