鹿島美術研究 年報第8号
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キリストの図像は,他のジャンルからの図像の流入により多様化するとともに,キリストは,それにふさわしく荘厳化する。ピエトロ・エ・マルチェリーノ43のキリストは,全身から,光線を放ち,そのカリスマ性を強調している。4)ユリアヌス帝時代には,反宗教改革現象として,「真の哲学」キリスト教のプロパガンダのために,多くの作品が作られた。エルメーテ6など,多数の作品がこの時代に属する。5) 4世紀後半には,キリスト教美術は,シンボリズムの時代を迎え,中でも,コモディッラ3,5では,キリスト自身が,巻物を入れたカプサの姿であらわされるまでになる。6)最晩期を飾る,もっともモニュメンタルな作例は,ホノリウス時代のピエトロ・エ・マルチェリーノ3の天井画であろう。二段構成であり,地上のバシリカ装飾のため構想されたものであることが容易に想像できる。7)このあと,カタコンベは,墓地としての機能を失い,以後8世紀まで,巡礼地として,多くの巡礼者を集めるとともに,その絵画も葬祭芸術の様相を失い,地上のバシリカ装飾のコピーとなる。コモディッラ3における,6世紀の「鍵の授与」の場面は,図像的にも様式的にも,完全に,静止的左右対称的な正画性を示し,6世紀のラヴェンナのモザイクにあらわれるのと同じ,ビザンチン美術の様相を示すのである。(附属)全作品リスト1)エルメーテ6 2)アナポ8 3)ジョルダーニ2, 7, 10 5)チリアカ2 7)アウレリウス家墓所1, 2, 3 9) トレビオ・ジュスト1 11)チルコ・マッセンツィオ1 墓室ナンバーはA.NESTOR!に従う。4)マイウス3, 13, 16, 17, 20 6)ピエトロ・エ・マルチェリーノ3, 17, 34, 43, 52, 53, 56, 58, 59, 65 8)ゴルディアーニ・エド・エピマコ1 10)ヴィア・ラティーナ1, 3, 4, 6, 9, 13 -147-

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