丹念に,描き込んでいったのである。その結果として,画面の色彩は極めて鮮明となり,影の部分ですら,光を受けたように明るい色彩で描出された。しかも細部をもゆるがせにしない彼らの定義に即した描写方法によって,あたかも中世のミニアチュルのような効果をもたらすことになった。この揺写方法において注目しなければならないのは,まず第一に,彼らができる限り鮮かな,と言うよりは,けばけばしいとさえ思われるほどの生々しい色彩で対象を捉えたことである。これは,極めて画期的な考え方であると同時に,20世紀絵画の先駆をなすものと考えられる。として,戸外制作によって光を意識したにもかかわらず,後年のモネらとは異なり,彼らは決して対象の固有色を放棄しなかったことが挙げられる。第三として,彼らは輪郭線による対象の揺写方法を遵守していることである。これは,彼らの素揺,下絵に顕著に表れているものであるか,これらの輪郭線を強調した硬い線描には,対象の三次元的な表現はほとんど認められない。その結果として,仕上かった作品は必然的に奥行感の乏しい,平坦な画面となった。この独特な制作・描写方法とその象徴的表現方法に,ラファエル前派の19世紀後半のイギリス美術における重要な意義があると思われる。ここで問題とするのは,初期・形成期のラファエル前派の活動が何時終ったかということ,並びにそれ以降の主要メンバーの活動をどのように捉えるのかである。この問題についても,諸説があって,現在に至るも定まらない。形成期の終了時については,一般的には1850年代末までは存続していた,と考えられている。それは,主要メンバーであったハント,ミレー,ロセッティの間に僅かながらにしても協調関係が保たれていたからである。しかしながら,この時既にロセッティを中心として新たなグループが結成されていることを考慮しなければならないであろう。ほとんどの研究者は,このグループを拡張されたラファエル前派,ないしは中期ラファエル前派と見倣しているのである。しかしながら,彼らの作品は,1857年にオックスフォード・ユニオンの壁画に形成期のフレスコ画法を用いたことを除けば,ラファエル前派の最大の特質である前述の制作・描写方法を放棄していることに注目したい。これは,この壁画制作が技術上の欠陥から失敗したことに由来すると考えられてい3.いわゆる中期ラファエル前派の問題157-
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