鹿島美術研究 年報第8号
193/364

6.同時代の美術との関連性もう一点は,1857年のモクソン版テニスン詩集の挿図である。この制作には,ロセッティのみならず,彼とたもとをわかったはずの,ミレーやハントも参加しているのである。このことは,何らかの意味にしても,彼ら三人の間に共通の感情が残っていたことを示している。しかも,彼らの作品には初期の特質が濃厚に認められるのである。これまで述べてきたように,初期のラファエル前派は,同時期のイギリス絵画に多大の影靱を及ぼした。しかし,初期ラファエル前派の解体が急速であったように,その影響も急速に変容する。こうしたなかで,初期ラファエル前派の極めて独特な象徴的表現と描写方法は,19世紀末の象徴主義絵画の特質と類似していることに注目したい。通常,文学上でのロセッティの詩作品,殊に後年の諸作品が,象徴主義文学の形成に多大の影響を及ぼしたことが指摘される。しかし,それ以上に,絵画上の上記の特質が象徴主義絵画の誕生に与えた影響には,計りしれないものがあったと考えられるのである。従って,初期ラファエル前派は,象徴主義絵画の先駆者と見倣されよう。この点においても,ラファエル前派の活動には,極めて大きな意義がある。以上,19世紀後半のイギリス美術の特徴についての調査研究の成果を,ラファエル前派を中心に記載した。後半部分の日本の近代美術に与えたイギリス美術の影響については,いまだ研究途中である。なお,割愛した研究成果部分については,文化女子大学研究紀要等に発表する予定である。ご了承されたい。-160-

元のページ  ../index.html#193

このブックを見る