鹿島美術研究 年報第8号
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第三の特徴は,北斎の風景画における描写の主要な特徴に,空間が前景から遠景ヘと漸次に縮小していく自然な広がりというより,前景と遠景との対象の極端な差の対比,つまりその大きさや鮮明度などを隣り合わせにすることによる意外性がよく使われていた。それは先に指摘したように,北斎が読本の挿絵制作によって磨かれた風刺的な滑稽味に由来するものであろうが,ごく正常なものに全く別の視角を導入することによってその間の落差から生じる庶民的な「見立て」の自由精神である。勿論,自然のそうした捉え方は,秋田蘭画家が試みた遠近感の猫写をより極大化して,表現化していたものであろう。ところで,北斎の後に続く広重の場合,もっぱら風景版画が多く,それもより自然な見方で捉えている。それは以前の都市的な局部的な文化から脱皮して全国性,地方性へとより変化したことであるか,それには低い大衆的な趣向と相侯って,生地の滑稽さが感じられる。従って,その画風は分かりやすく,誰にでも親しまれる平凡な風景が登場していたが,さらに東洋特有の叙情的な四季感覚が盛り込まれていったのであった。-165-

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