⑯ 東洋陶磁における印花技法について研究者:東京国立博物館学芸部東洋課中国美術室研究員今井研究報告:印花とは,陶磁器の素地が生乾きのうちに型を押しあてて文様をあらわす加飾技法である。印花はまず大きく二つに分けられる。一つは印模(モールド)を用い,碗や皿の内側に押しあてて複雑な文様をあらわすものであり,もう一つは一種から数種のスタンプを押し並べて器面を飾るものである。このほか,粘土板を外型に押しあてて立体物を形づくる技法や,クッキー型のようなものを用いて文様を抜き,器面に貼りつけて装飾する貼花の技法なども,広い意味での印花に入れて考えることができる。印花技法は,地域や時代を超えて広く東洋陶磁全般に見られる。陶磁器の加飾法の中でも長い歴史をもち,最も普遍的に見られる技法の一つであるといえる。しかし技法からくる特性上作風の変遷をとらえることが難しく,これまで分析の対象とされることが少なかった。また型を用いるのは量産の為に工程を簡便化した技法であるとする見方が一部にあり,あるいは工芸品の芸術的価値を作家個人の個性に求めようとする立場からは印花装飾は「型どおり」といった評価が与えられ,一段低く見られる傾向にあったといえる。しかし印花がおこなわれる動機や理由は単なるコピーの量産ばかりではない。さらに印花ならではの特色ある表現も見ることができる。印花装飾の展開を考察し,その特質を把握することによって,陶磁史の研究に新たな視点を加えることができるのではないだろうか。型を用いた技法はその起源や動機からいくつかに分類することができる。その第一は成形技法上の要請からくるものである。輪轄成形によらずに土器や陶器を製作する場合には,枯土紐を積み上げて器物の内側に「当て板」を当て,外側から「叩き板」で胴を叩き締めながら成形する。このとき叩き板に線条などを刻んで素地がよく締まるようにし,器物の外側には「叩き目」がつく。叩き板に模様を刻んでおけばそのまま器面を飾る文様となる。叩き目を積極的に加飾法として利用する工夫は,中国の印文陶に見られるように非常に早くからおこなわれていた。珠洲焼に見られるような単純な叩き目の場合でも,装飾の意図が強く働いていたことは容易に感じられる。印花が用いられるケースの第二は,輔輪で成形できない形状の器の場合である。変形皿,口縁が稜花になって盤,あるいは人形や香炉などは輔轄でひくことができない敦-194-
元のページ ../index.html#227