次に,金工品など他の材質の工芸品の装飾文様が陶磁器で模倣される場~に印花がため,型を用いて成形される。このとき型に模様を刻んでおけば,そのまま器に写されて装飾となる。遼三彩の変形皿などに多くの例を見ることができる。用いられることがある。例えば魚子を打って地の部分をつぶし文様をあらわす金属器の加飾技法は,磁州窯の陶器で模倣されている。白化粧を施した器面に小円文のスタンプをびっしりと打ち,素地が露出することにより金属器の魚子文様と同様の効果を生み出している。さらに,規格を揃える目的で型が使用されるケースがある。同一の型を用いて揃いの組物を製作する場合である。すぐれた製品を規格を揃えて効率的に製作することは,工芸においては普偏的に追求される課題の一つである。したがって雑器を量産する場合ばかりでなく,精緻な文様が施された高級品を製作する場合にも印花は広く用いられている。以上に印花が使用されるケースをいくつかに分類して見てきたか,工程の簡略化以外にもさまざまな理由がある以上,印花文独自の表現上の特色があるはずである,定白磁を例に,他の技法との比較を通して,印花文様の特徴を考えてみたい。定窯は中国河北省訓湯県にその窯址があり宋代にすぐれた白磁を焼いたことで著名である。やや酸化気味に焼成された牙白色の白磁に,割花(彫り)や印花で文様が施され,その繊細で優美な作風は高く評価されている。現在では一般に割花文様をもつものが定窯の代表的な製品であると評価されており,定窯は北宋末に最盛期を迎えたと考えられること,あるいは年代の判明する印模(モールド)の例が金時代に集中するといったことから,定窯では北宋時代に劃花が先行して発達し,金時代に入って定窯が衰え,印花装飾が中心になったという見方が一般におこなわれている。しかし,北宋から金にかけての定窯白磁の作風の変遷は,この時期の紀年資料が全くといってよいほどないことから必ずしも明確ではなく,劃花から印花へと流れでとらえることには問題が残ると思われる。実際に,劃花の表現と印花の表現との間には連続する部分か少なく隔たりがあることはこれまでにもしばしば指摘されており,劃花文と交代する形で印花文が始まったとする見方は成り立ちにくいのではないだろうか。定窯白磁の劃花文は,文様の輪郭に向かって斜めに刃を入れ,彫った部分に釉薬が溜まって文様をうかびあがらせる「片切り彫り」とよばれる手法であらわされる。流麗で軽快な刀法が生み出す快い律動感と,わずかに黄みをおびた釉薬の濃淡のグラデ-195-
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