鹿島美術研究 年報第8号
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⑳ 上代における請来仏具の研究(中間報告)(-) 研究者:帝塚山学院大学教授河田研究報告:わが国には幸いにも,仏教の草創期から興隆期にあたる7• 8世紀の仏教工芸品が二群まとまって伝世する。一つは法隆寺伝来品,他は正倉院宝物中の仏具類である。前者は明治初年にほとんどが皇室に献じられ,戦後国有となってからは東京国立博物館が保管することになったいわゆる法隆寺献納宝物が中心をなすが,7世紀から8世紀にかけての遺品を数多く含み,後者の正倉院宝物の場合は8世紀中葉の遺品が主流を占める。いずれも当時有数の由緒ある大寺に伝世してきた仏具類であり,時代性を顕著に示すとともに,技術的にも意匠的にもまた材質的にも水準の高い第一級品であるのは申すまでもない。しかも仏教をわが国に伝えた朝鮮半島をはじめ,遣隋,遣唐使の派遣以降,緊密な交流関係にあった中国の遺品をも多く包括することで,仏教工芸史上画期的な意義を有している。本研究では,この二群のうちの仏具を中心として,遣唐使が事実上派遣されていた九世紀中葉頃までの製作になる仏具を摘出,それらの中から請来品に比定される事例の特色を把握,最終的には請来仏具の本邦製仏具に及ぼした影響を考察するのが目的である。しかしながら7• 8世紀に比定される仏具の場合,たとえ本邦製であっても基本的には先例を忠実に踏襲するのが通例であり,両者の差異を的確に把握することは,必ずしも容易ではない。したがって調査対象とする仏具は,まず近年発掘成果のめざましい,中国や韓国での出土遺品の中から,報告書や関係資料によって典型となる遺品を選び,形式,技法,材料などさまざまな角度からその時代的特色を考察,わが国に現存する関連遺品と比較することにより,この時代における請来仏具とその模写製品ともいえるいわゆる請来様仏具の様相を明らかにするよう心がけた。(二)中国,韓国での近年の出土仏具は,香具や浄瓶や飲食器といった供養具が大勢を占める。これは仏塔の塔基あるいは古墳からの発見品が主流をなすからで,前者は安置貞212

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